1 航空機の捜索救難


(1) 捜索救難体制のあり方

  航空機の捜索救難業務を有効に実施するための体制は,最近における遭難事故発生の態様,業務処理の具体的要領から明らかなように,最少限度つぎの要件をそなえていなければならない。

 イ 熟練要員の24時間勤務

      航空機が行方不明となつた場合,当時の気象状況,推定される航跡,地形等を勘案して捜索範囲を決定するには,相当の熟練を要するとともに航空機の遭難は予告なく,しかも官庁執務時間にかかわりなく発生するためその要員の配置については24時間制でなければならない。

 ロ 関係機関の緊密な協同体制

      わが国の現状においては,捜索救難を単独で実効的に実施しうる機関が存在しないため,人命および財産の保護,航空の安全等に関して権限を有する警察庁,海上保安庁,運輸省航空局,防衛庁の各関係機関の協同により実施するより他に方法はなくしかもこの協同体制は,ことがらの性質から,きわめて緊密である必要がある。

 ハ 適確な通信系

      捜索救難を行なうには,確実な情報が必要であることはもとより,関係機関相互間の円滑な意思疎通を図り,緊密な協同体制を布くことが必要であり,そのためには適確な通信系の設定が不可欠である。

(2) 航空機の捜索救難に関する協定

  昭和38年8月の藤田航空(株)所属ヘロン機の八丈島事故を契機として,前記関係機関相互の連絡調整を緊密にする必要性が強く指摘された。航空局は同年末各関係機関相互間の捜索救難に関する協定について原案を作成し,数次にわたつて協議を重ねてきたが,昭和40年3月18日警察庁,海上保安庁,運輸省航空局および防衛庁との間に「航空機の捜索救難に関する協定」が成立し,施行されることとなつた。

(3) 捜索救難に関する協定の内容

 イ 救難調整本部

      捜索救難体制を効率的に運用するためには,その中心機関が必要であり,わが国が加盟している,シカゴ条約第12附属書(捜索及び救難に関する標準及び勧告された方式)にも救難調整本部の設置が規定されている。
      このたび成立をみた捜索救難に関する前記協定では,救難調整本部は,警察庁,海上保安庁,防衛庁との間に直通専用回線が設備されており,24時間勤務を行なつている東京航空保安事務所に置くこととしており,航空機の捜索救難に関する業務を有効に促進するため必要な連絡調整については,この救難調整本部において関係機関が随時協議を行なうこととしている。
      なお航空局長は,捜索救難を行なうべき区域の位置,範囲等を勘案し,必要があると認めるときはその都度指定する他の航空保安事務所に救難調整本部を置くことができることとなつている。

 ロ 措置基準

      前期附属書に準拠して,航空機が捜索救難を必要とする状態を次の3段階に分け,その各段階ごとに,その状態を知つた機関,救難調整本部および関係機関のとるべき原則的措置を規定している。

 (イ) 不確実の段階

     @ 位置通報または運航状態通報が予定時刻から30分過ぎてもない場合
     A 航空機が予定時刻から30分(ジェット機にあつては15分)過ぎても目的地に到着しない場合

 (ロ) 警戒の段階

     @ 前段階における通信捜索で当該航空機の情報が明らかでない場合
     A 航空機が着陸許可を受けた後,予定時刻から5分以内に着陸せず,当該航空機と連絡がとれなかつた場合
     B 航空機の飛行性能が悪化したが,不時着のおそれがある程でない旨の連絡があつた場合等

 (ハ) 遭難の段階

     @ 前段階における通信捜索で当該航空機の情報が明らかでない場合
     A 当該航空機の搭載燃料が枯渇したか,または安全に到着するには不十分と認められる場合
     B 当該航空機が不時着をしようとしているか,または既に不時着を行なつた情報を受けたか,もしくはそのことが確実である場合等
      なお,この協定においては,航空機の捜索救難は人命にかかわる重要性をもつているので,この協定の規定にこだわつて適切な捜索救難に支障をもたらさないようとくにいましめている。

(4) 救難体制の整備強化の方向

  この協定により,救難調整本部が東京航空保安事務所に置かれることとなつたが,救難調整本部に関する前記第12附属書の趣旨および各国における救難調整本部のあり方からみて,救難調整本部は,捜索救難活動の中心的存在としてこれを効果的に果たしうる能力を有すべきである。
  したがつて,この協定による救難調整本部のあり方は,十分とはいいがたく,今後は前記のよらな方向に整備強化を図るべきである。


表紙へ戻る 次へ進む