3 出入国手続


  観光客の国際往来の障害となる事柄は種々あるが,煩雑な出入国手続(たとえば複雑な上陸許可申請手続,厳しい税関検査)厳重な各種の規制(たとえば土産品の持込み,持出しの量,価格の制限)等は,観光客のその国に対する印象を悪くするのみならず,これからその国を訪れようとする外客に対しても心理的な悪影響を及ぼし,その旅行意欲を減退せしめるものである。
  現在,出入国管理は,程度の差こそあれ,ほとんどの国においてその国の貿易政策上の必要,あるいは公衆衛生,公安維持,為替管理上の必要から行われているのであるが,観光往来の重要性にかんがみ,観光事業の振興に力を入れている国々,またICAO(国際民間航空機構),IMCO(政府間海事協議機関),IUOTO(官設観光機関国際同盟)その他の国際機関により,その容易化のための努力が続けられてきている。特に,一昨年,ローマで開催された国連主催の国際旅行および観光に関する会議では,出入国手続のあらゆる面にわたつてその簡易化のための方策が検討され,細目にわたつての勧告が国連加盟の各国に対してなされている。
  以下,わが国の出入国手続に関し,(1)旅券,査証および入国審査,(2)通関,(3)検疫,(4)通貨および為替管理の各項日ごとに,述べることとする。

(1) 旅券,査証および入国審査

  外国人がある国へ入国しようとするときは,原則として入国しようとする国の在外公館か領事官の査証を受けた有効な旅券を所持することが必要である。しかしながら,国際往来が活ぱつに行なわれている国々では,旅行者にとつて非常に煩雑な査証を,2国間相互の取りきめにより,あるいは特定国に対して一方的に廃止し,旅行者の往来の容易化を図つている。特に,ヨーロッパのOECD加盟諸国相互間ではすでに完全に査証が廃止されており,更に旅券の代わりに身分証明書やツーリスト・カードの使用を認めている国もかなりある。
  わが国の場合,外国人の入国手続は,出入国管理令の定めるところにより,原則的には前に述べたと同様査証を受けた旅券を携帯し,入国港において入国審査を受けることとなつているが,特例として,72時間以内滞在の一時上陸客や観光のため通過上陸する船舶利用客(15日間の滞在が許される。)に対しては,査証なしでも入国が許可されている。また,40年6月現在で,22カ国と査証の相互免除,さらに5カ国と査証料免除ないし減額に関する取りきめを結んでいる。なお,アメリカとの間では,原則的には6カ月間1回限り有効の査証を48カ月何回でも有効としているなど,旅行者の便宜を図るための措置がとられている。
  今後の簡易化の方向としては,査証免除相手国数を増加させること,身分証明書の旅券代用の承認,団体旅券の承認,団体査証の発給,寄港地上陸許可書の他港通用等があげられるが,これと併行して,上陸審査手続,特に周遊観光船利用客の上陸審査手続の一層の簡易迅速化が望まれる。

(2) 通関

  通関については,わが国も加入している「観光旅行のための通関上の便宜供与に関する条約(1954年)」の規定が世界的に広く適用されており,わが国も同条約の規定および関税定率法の規定に基づき外客が自分で使用する物品および職業上必要な器具で税関が適当と認めるものは,関税を免除している。また,通関手続についても,船舶利用客および別送品がある場合を除いて原則として口頭申告制をとつており,検査も一部抽出検査方式を採用するなど簡易化のための措置が講じられている。
  また,外国人観光旅客が輸入する自動車については,39年に,長年の懸案であつた「道路交通に関する条約(1949年)」及び「自家用自動車の一時輸入についての通関に関する条約(1954年)」に加入し関係国内法令の整備も行なわれた結果,簡易な通関が認められることとなつた。

(4) 検疫

  わが国の検疫は,国際衛生規則の定める国際的な基準に沿つて行なわれており,その検査手続も簡易迅速化が図られている。

(5) 通貨および為替管理

  外国人旅行者による通貨の持込み,持出しについての制限は,世界的に廃止の傾向にあり,現在では全く自由となつている国も多い。わが国の場合,外貨又は円貨を本人が携帯して持ち込むことおよび入国時に持ち込んだ外貨を出国に際して持ち出すことは,税関の確認を受けるだけの手続で,額に制限なく認められている。また,両替については,全国に約1,500ある外国為替公認銀行又は両替商で自由に認められており,従来再交換について設けられていた1人1回100ドルの制限も撤廃され,100ドルを越えて交換する場合は,外貨を円貨に両替した際交付される「対外支払手段買取記録書」を提出すれば,日本円に両替した額までは自由に再交換できるようになつたので,今日一般の外国人観光客に不便を感じさせるような問題点は特にないものと考えられる。
  ただ,周遊観光船の入港時の両替業務について要員等の理由から場合によつては必ずしも需要に応じられず,外客の苦情を招いていることもあること,また,地方によつては両替商の数が少ない地域も見受けられる等の問題が残されている。


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