2 経営状況


  ホテルの収入は宿泊料と飲食料が主であつたが,近年の用地費,建設費の高騰によつて,新設ホテル等は一定限度の収益しかあげ得ない宿泊部門より,収益性に弾力のある飲食部門その地部門に力を入れるようになつてきている。すなわち,「宿泊収入」の総収入に対する割合は, 〔IV−30表〕にみられるとおり全国平均で,昭和35年には30%であつたのが38年には26%と逐年減少している。一方,「飲食収入」の割合はあまり変らず,また「その他収入」の増加は著しく,38年度には宿泊収入にほぼ匹敵するまでになつている。これは,ホテルに付随した送迎用自動車,プールその他の施設の兼業に乗り出した結果と思われる。

  次に,収入に対する支出の割合をみると,35年には全国で96.1%であつたものが,37年には97.1%,38年には99.8%と次第に増大している。
  支出の内訳は, 〔IV−31表〕にみられるとおり,材料費が26〜28%,人件費が22〜23%となつている。また,支払利息が増加しているが,これは新設ホテルの増加によるものと考られる。

  次に,ホテル業の資産の特性は,固定資産の割合が極めて大きく, 〔IV−32表〕にみられるとおり,総資産の86%以上となつていることである。これはいうまでもなく,建物自身を経営の母体とし,客室を売物として営業を行なつているためである。これは公共制の強い,電気,ガス,鉄道業等に近い資産状況である。

  資本構成も 〔IV−32表〕にみられるように,35年には,自己資本は30%であつたものが38年には22%と急激に悪化してきている。
  このように,収支状況も資本状況もすべて近年悪化してきているが,これは来訪外客の逐年の増加に対処するためと,昨年のオリンピック東京大会を目標として,ホテルの建設ブームが興つたため新設ホテルが急激に増加した結果(総客室では最近の5年間で約2倍)と考えられる。すなわち,ホテルを新設する場合には,多額の投下資本を必要とするが,現状では十分な自己資本を調達することが困難なため,借入金に依存する度合が大きくなり,このため資本構成は悪化し,収益面では支払利息に追われる一方,開業当初から十分な売上を期待することは困難であるので利益率も低下してきているためである。この状況は第 〔IV−33表〕にみられるとおり,収益関係では,総資本利益率,総資本回転率および売上高利益率の低下となり,また,固定比率,固定長期適合率も 〔IV−33表〕にみられるとおり低下し,企業の安定性が悪化してきていることを示している。

  従つて,前述のとおり,ホテル本来の宿泊およびこれに伴う飲食収入では充分でないので,都市ホテルでは宴会場,バイキング,中華料理等の食堂経営,結婚式場の経営等を行ない,リゾートホテルではさらに進んで,プール,海水浴施設,ゴルフ場,スキー施設の兼営に力を入れている状況である。
  以上に見てきたように,ホテル業は収益性においても,安定性においてもすぐれているとはいえない。しかしながら,わが国の国際観光の立場から考えると,外客向宿泊施設の整備は最も重要な課題である。
  このためには,日本開発銀行をはじめとした低利,長期の安定した資金を現在よりも多く融通するとともに,ホテル自身においても機械化の導入による人件費の節約等,経営の合理化をさらに推進する必要があると考えられる。


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