2 運賃問題


  民営鉄道の運賃改訂については,昭和40年度においても物価の動向,国民生活に与える影響等を考慮して慎重に検討が行なわれ,この結果,懸案の大手私鉄14杜および営団をはじめ横浜市および大阪市ならびに若干の中小私鉄について運賃改訂が行なわれた。その概要は次のとおりである。

(1) 大手私鉄14杜および営団

  大手私鉄14社の現行旅客運賃は37年11月1日に改訂されたものであるが,その後年々増加する旅客,特に通勤,通学客の輸送の万全をはかるため,第1次輸送力増強ならびに運転保安3カ年計画を上回る巨費を投じて,39年度を初年度とする大手14私鉄輸送力増強3カ年計画を策定し,現在これを実施中であるが,これに伴つて資本費が増大しているうえに人件費および諸経費も高騰しており,経営状況が悪化してきたので,40年1月11日(西日本鉄道のみ40年5月11日)に旅客運賃改訂の認可申講書を提出した。
  営団の現行旅客運賃は36年11月1日に改訂されたものであるが,その後日比谷線および東西線の地下鉄建設工事が進捗するに伴つて資本費が増大するとともに,人件費および諸経蟹も高騰しており,新線開業後の収支状態が悪化してきたので,40年8月12日に旅客運賃改訂の認可申請謡を提出した。
  これらの申講に関しては40年8月18日に運輸審議会に諮問するとともに,その収支内容,輸送力増強工事の必要性および工事計画の具体的内容について慎重に検討を加えた。運輸審議会においては,これらの申講事案について40年9月28日から3日間公聴会を開催し,その後申講者の最近の収支状況等についで慎重に検討を加えた結果,41年1月10日に,大手私鉄14社については各杜平均申請値上率22.3%を20.3%に修正した運賃改訂を,営団については申請どおり26.6%の運賃改訂をそれぞれ認可することが適当であるとの答申を行なつたので,翌11日臨時物価対策閣僚協議会の了承をえたうえで答申どおりの認可を行なつた。なお,認可に際しては,運賃改訂にもとづく収入の増加によつて輸送力増強計画を完全に実施し,輸送力の増強,運転保安の確保,輸送サービスの向上等をはかり,公共事業としての使命を達成するよう通達を発して,この遵守かたに十分指導監督をすることとした。

(2) 横浜市および大阪市

  横浜市の路面電車および無軌条電車の現行旅客運賃は37年5月1日に改訂されたものであり,大阪市の路面電車および無軌条電車の現行旅客運賃は37年4月1日および40年1月16日にそれぞれ改訂されたものであるが,その後両市とも自動車交通量の激増によつて電車の輸送効率は低下の一途をたどり所期の収入をあげることができないうえに,人件費をはじめとする諸経費の高騰のために収支状況はきわめて悪化してきた。このような実情に対処して両市とも交通事業財政再建計画を策定し,不採算路線の廃止,電車のワンマンカー化,高速鉄道網の整備等経営合理化,近代化の抜本的対策を実施中であるが,これにも限度があるので,横浜市においては41年2月3日市議会の議決を経て同日に,大阪市においては41年2月4日市議会の議決を経て翌5日にそれぞれ旅客運賃改訂の認可申請書を提出した。
  これらの申請に関しては,41年3月8日に運輸審議会に諮問されたが,同審議会は4月1日聴問会を開催し,その後慎重に収支内容等を検討した結果,4月9日に路面電車の運賃については両市とも15円を20円に,無軌条電車の運賃については横浜市は20円を30円に,大阪市は20円を25円に改訂を認可することが適当であるとの答申を行なつた。この答申をうけ,同日答申どおりの認可が行なわれた。

(3) 中小私鉄および公営

  中小私鉄および公営の大部分は,他の交通機関の進展に伴なつて定期外旅客は年々減少し,割引率の高い定期旅客のみが漸増している状態で,収入は伸び悩みの傾向にあるのに対し,人件費をはじめとする諸経費の高騰によりいずれも経営内容が悪化しているので,40年度においても旅客運賃改訂の認可申請書が続々と提出された。これらの申請については消費者物価対策との関係を十分考慮に入れながら慎重に収支内容を検討した結果,41年4月までに中小私鉄64件,公営6件の旅客運賃改訂の認可が行なわれた。
  以上の結果,36年3月に公共料金等物価値上げ抑制措置がとられて以来,大手14私鉄,営団をはじめ,中小私鉄および公営の大部分は2回目の運賃改訂を行なつたこととなるが,民営鉄道特に中小私鉄および公営については経営状態が年々悪化している実情を考慮すれば,近い将来またまた運賃改訂の申請が続出することが予想される。しかしながら,経営の悪化の解決を安易に運賃改訂にもとめることは公共事業としての性格上許されないので,事業者に対して経営の近代化,合理化をはかるための諸施策を真剣に検討するよう指導監督することとした。


表紙へ戻る 次へ進む