2 海上交通事件と海事関係法令違反の取締り


  最近,港湾,狭水道等において船舶のふくそうに伴う衝突事故の危険性が増大しているうえに衝突加害船の逃走事件が頻発し航行船舶の脅威となつている。
  衝突加害船逃走事犯は,海上という特殊な環境で多数の人命および財産が失われる危険があることを承知のうえで逃走するもので,その犯罪はきわめて悪質なものであるが,40年においては,107件の衝突加害逃走事件が発生しており,そのうち56%にあたる60件を検挙した。
  しかしながら,@この検挙率は陵上のそれと比較して著しく低くAまた,この事件のなかには,乗組員が全員死亡または行方不明となつた事件が7件もあり,Bさらに,その発生海域は瀬戸内海,東京湾,関門海峡等船舶交通のふくそうする地域に発生しているので,この種犯罪の検挙率の向上は船舶航行安全のためゆるがせにできたい現状にある。
  また,海上交通の安全の確保と秩序の維持を図る海事園係法令の違反は,海難の発生に結びつくものであるので,これら法令を励行させるようその指導啓蒙に努めているが,とくに最近では,船舶交通が著しくふくそうして海難発生の危険性が増大しており,海事関係法令の励行とその法令違反の取締りによる積極的海難防止の促進がますます必要になつている。
  40年には,わが国船舶の約3分の1にあたる14万隻の船舶に立入検査を行ない,必要によつては,関係者に海事関係法令の励行について注意を促した。とくに船舶のふくそうする時期,あるいは海難の多発する時期をとらえ,また海難を起こした場合大きな災害をもたらすおそれのある油送船,旅客船を対象とし,全国的な一斉取締りを実施して海難防止に努めた。これにより,同法令の検挙件数は例年1万7,000件前後であつたが,40年には約2万2,000件と大幅に増加し,海事関係法令違反の慢性化と今後の続発が憂慮される状況である。
  わが国周辺を航行する船舶は今後ますます増加し,海難防止の必要性がさら
 に高まるであろうが,このような海事関係法令の違反状況にかんがみ,真に海上の安全を図るためには,法令の遵守について関係者の反省と自覚を促す一方,海上保安官,船舶検査官,船員労務官等の間の連けいをより密接にし,悪質な法令の違反に対する取締りの徹底と違反防止の指導監督を充実してゆく必要がある。


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