1 鉄鋼


  わが国の鉄鋼業は,粗鋼生産量で米ソにつぎ世界第3位を占めるに至るなど,戦後の成長ぶりは著しいものがあるが,その発展過程のなかで注目すべき現象に立地動向の変化がある。
  すなわち,戦前においても,わが国の鉄鋼業は臨海立地型の指向をとつていたが,それでも原料輸送技術の開発が十分でなかつたため,八幡(石炭),釜石(鉄鉱石),の場合のように主要原料の輸送をかなり重視した立地を行なわざるを得なかつた。しかし,戦後,量的拡大が続くなかで,海外原料への依存度が増大し,かつ大型高性能の鉄鉱石専用船の就航に代表される原料輸送技術の向上を背景として原料輸送距離の遠隔化傾向がみられ,製鉄所間の原料輸送費の格差は減少した。このため,量産規模に対応する市場条件のほうが重視されるようになり,千葉,和歌山,堺,水島,福山のように良港に恵まれしかも大消費地に近接した地点に大型一貫製鉄所が建設され,市場立地指向の色彩を深めている。
  これを出荷額についてみると,35年度対比で60.4%増となつているが,地域別には南関東,東海,阪神,近畿,山陽をあわせたいわゆる太平洋岸ベルト地帯への生産集中は著しく,全国の約80%を占めており,この反面北九州が対全国シエアで大きく後退をみせている。
  輸送量は 〔2−2−8図〕に示すように35年度対比で2倍強となつているが,生産,出荷を反映して,南関東,近畿,山陽で特に伸びが著しい。輸送機関別には鉄道輸送量が102%と微増にとどまつているのに対し,内航海運および自動車の輸送量はそれぞれ189%,224%という増加ぶりを示している。

  また域間,域内輸送別では,域内輸送量の比重がやや増大しているがこれはすでに述べたように,鉄鋼業の立地が消費立地的傾向を強めていることによる。さらに,域間輸送に関する注目すべき傾向として,鉄道のシエアが大幅に減退したのに対し,内航海運と自動車がそれぞれシエアの増加をみ,域間輸送における内航海運の比重がいつそう大きくなつたことが指摘される。これは臨海工業地帯立地という条件をさらに有効ならしめるために,製品輸送面での合理化策が推進され,船舶で,ストックポイントまで輸送し,自動車できめ細かい配達を行なうようになつてきたためである。


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