4 スエズ運河の閉鎖とわが国海運
42年6月に中東戦争がおこり,そのため6月6日にスエズ運河が閉鎖されたが,スエズ運河は東西貿易の要路として年間2万隻以上の船舶が通航しており,この閉鎖によつて航行距離は,ロンドン/ペルシヤ湾では運河経由で6,400カイリであるのに対し,ケープタウン迂回では11,300カイリと76%も増加し,ロンドン/横浜でも11,000カイリから14,500カイリへ約30%増大する。このような輸送距離の延伸は,航海日数の増加,従つて航海数の減少による輸送能力の低下,運航経費の増加等により,世界における船腹不足を招来し,海上運賃の上昇をもたらしつつある。
スエズ運河の閉鎖によつて,西欧向け中東石油の運送距離が大幅に延伸したため,油送船船腹需要も大幅に増加し,世界の主要石油会社は6月中で延べ2,500万重量トンに及ぶスポット輸送契約を行なつている。これは平常時の1か月の契約量の約2倍に達するものであり,このため,タンカー市況は,中東/欧州間で閉鎖前の約10倍で,中東/日本間も閉鎖前の約5倍にまで上昇を示した。また,これら大量に用船されれ船腹は,大西洋に稼働していた約300万重量トン(5月末現在)におよぶグレーン・タンカーの引き上げ,ならびに170万重量トン(5月末現在)の係船の解除によつて行なわれており,その波及効果として,不定期船市況も全般的に高騰するとともに用船市況も上昇している。
スエズ運河を通過するわが国定期船は,欧州航路,中東航路黒海航路,世界一周航路,西阿航路およびインドネシア/欧州航路等月間10.5航海であるが,これ等の航路はいずれも,ケープタウン迂回か,パナマ運河経由あるいは途中折返し等航路変更を行なつており,このため,関係同盟は10%のサーチャージの徴収を行なつて,経費の増加,積荷の減少等の損失をカバーしようとしている。
また,ケープタウン迂回,パナマ運河経由により,従来通りのルートによる航海に比較し,約30日(スエズ経由100日,ケープタウン迂回130日)航海日数が増加し,従前の運航回数を維持するためには必要船腹量も30%程度増加するが,邦船各社は,サービス低下をきたさないよう抜港による配船調整を行ない航海日数の増加を5〜10日におさえ船腹の新規投入を避けながらスケジュールの確保に努めている。
不定期船はスエズ運河通過による輸送活動をほとんど行なつていないので直接の影響を受けることはない。しかしながら,わが国海運会社は常時約80万重量トン程度の短期外国用船を行なつており,用船料の高騰が長期にわたれば,契約更新期が到達し,高い用船料で契約せざるをえなくなり用船料の負担増,外貨支払額の増加となる。
900万重量トンに達する油送船については,輸入輸送に従事しているものは約770万重量トンで,残り130万重量トンのほとんどは長期契約,タイムチャーター等により,三国間輸送に従事しており,スポット輸送を行なつているのは,1隻のみである。
スポット輸送に従事する短期外国用船については船腹不足により手当が難かしくなつている。
わが国の石油は約90%が中東地域より輸入されるとともに,約70%が邦船,外国用船による長期契約により安定的に輸送されているが,残り30%はスポット輸送により運賃の高い外国船に依存せざるをえない。これによる原,重油の輸入価額へのはね返りは必至であり,スエズ運河閉鎖の長期化,運賃市況の高騰とともにわが国石油の国内価額へも影響しつつある。
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