2 国内旅客航路の現況
昭和41年8月1日現在の国内旅客航路事業の現況は 〔II−(I)−19表〕のとおりである。
国内旅客航路事業は,この1年間に総航路数の約10%にあたる事業が廃止され,これとほぼ同数の新規事業が出現している。
このような大幅な航路数減少の理由の一つは,山口県の青海島一周航路の例にみるように,同一地区において競合して航路事業を運営していた多数の事業者が大同団結する例がふえたことが挙げられる。
第2の理由としては,航路体系の合理化のため,旧来の数航路を廃止し,新たに,現在の需要構造に適合した航路とする例がふえたことが挙げられる。これは,経済社会の進展によつて旧来の航路では現在の需要構造に適応しえなくなつたばかりでなく,船舶の運航効率も良くない地域において船舶の大型化,高速化を図ると同時に旧来の航路を合理化しようとする動きである。
第3の理由は,近年の著しい道路投資に伴う陸上交通機関の整備により,多くの沿岸航路が需要の激減によつて廃止のやむなきに至つた例が多いことが挙げられよう。とくに近年は海峡架橋によつて本土と周辺の島々が直接陸上交通機関によつて結ばれるようになる場合も多く,今後もこのような例がふえて来ることと思われる。
つぎに国内旅客航路を貨客船,自動車航送渡船,水中翼船という使用船舶の種類によつて分類してみよう。貨客船の就航している航路を一般航路,自動車航送渡船の就航している航路をフェリー航路,水中翼船の就航している航路を水中翼船航路として,41年8月1日現在の国内旅客航路を分類すると 〔II−(I)−20表〕のとおりである。
自動車航送渡船,いわゆるフェリーボートによれば,貨物については港での積卸し作業を要せず,そのための荷傷みも少なくてすみ,旅客については乗換えの必要がなく,また,自動車についてはその行動範囲を拡大することが可能となる。近年のモータリゼーションの進展は,フェリー航路数もこれに伴つて増大しており,38年以降に開設されたものが全体の70%強を占める状態にある。
とくに最近においては,道路の混雑度の増大,交通事故の激増,自動車運転手の不足といつた理由から道路と併行するフェリー航路あるいは従来採算ベースにのる運賃を徴収できないといわれていた長距離フェリー航路が出現しつつあることは注目される。また,佐渡,奥尻といつた日本海側の海象条件の悪い離島に対してもフェリーボートの就航がみられたことは,フェリー航路事業がこれまでの内海や湾口における橋に相当する施設としての性格を脱しつつあることを示しており,今後の発展の方向を示唆するものといえよう。
水中翼船は,在来船の数倍のスピードを有する船舶として大きな期待が寄せられているものであるが,機関の確実性など技術面でまだ満足すべき段階になく,欠航率が高いため安定した需要がつかずまた運航コストも高いといつた難点がその発展を阻んでいる。なお水中翼船と同じ高速の海上輸送機関としては近年英国において開発されたホーバークラフトがあるが,わが国においてもこれを取り入れようとする動きがみられる。
国内旅客航路事業をその需要の質によつて離島航路,観光遊覧航路,港内通船,その他の航路に分けてみれば,観光遊覧航路は新規開設航路の大半を占める増加ぶりをみせ,離島航路は,のちに詳しく述べるが,長年の累積赤字や海峡架橋の実現あるいは沿岸の道路整備の進展によつて近年減少する傾向にある。
新規開設航路のうち,一般旅客定期航路事業の約半分と旅客不定期航路事業の大部分は観光遊覧航路であるが,これは近年わが国経済の著しい成長によつて国民の消費生活水準がかなりの向上をみ,旅客航路を利用する観光客も漸次増大をみせている情勢を反映したものといえよう。
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