5 船腹量の調整


  内航海運においては,慣性的な船腹過剰がその体質強化を妨げる宿弊とされていたが,一連の過剰船腹対策の推進と国内経済の景気回復とにより,船腹需給はここ1〜2年のうちに著しい改善をみた。
  このような情勢のもとで,昭和42年12月15日に告示された昭和42年度以降5年間の各年度の適正船腹量は,すでに 〔II−(I)−16表〕のとおり,過去3回の告示と異なつて,現有船腹量が翌年度の適正船腹量を下回ることとなつており,このため,船腹量の最高限度も貨物船で4万8,000総トン,海送船で1万7,000総トン現有船腹量を上回る形で告示された。

  しかしながら,従来,鉛腹量の告示が年末に行なわれているため,当該年度の船腹需給に対する効果が薄かつたうらみがあり,42年度においては,一部貨物について一時的に船腹需給が強い引締りをみせる現象も生じた。このため,適正船腹量及び船腹量の最高限度の検討の時期をできるだけ早めることとなり,昭和43年度以降5年間の各年度の適正船腹量及び船腹量の最高限度は,本年8月10日につぎのとおり告示された 〔II−(I)−17表〕

  これによると,内航船腹の過剰状態は,昨年度に引き続きかなり改善されていることがわかる。このような船腹需給の改善は,さきにもふれたように,昭和39年12月以来引き続き船腹量の最高限度を設定し,船腹量の増加を厳しく抑制してきたこと,昭和41年5月に閣議決定された内航海運対策要綱に基づく老朽不経済船の一挙大量解撤,共同係鉛により抜本的な過剰対策が実施されたことと,41年秋以降回復しはじめたわが国経済が42年度においても引き続き高水準に推移し,内航の輸送需要も大幅な伸びを示したこと等の原因によるものであり,一時的要因による面が大きかつたものと考えられる。このため船腹量の最高限度の設定の必要性については,かかる実情を考慮するとともに,他方,昭和42年9月からの景気調整策が次第に各部門に浸透しつつあり,すでに内航の荷動きにその影響が現われつつあること,内航海運対策要綱に基づく薬局係船が解除されるとともに,一挙解撤に対応する新鋭の船舶整備公団共有船が内航市場に出現しつつあること,内航海運業の許可制への切替え,合併協業化の促進内航海運組合の育成強化等企業体質の改善対策がいまだその途上にあること等内航海運業の実情及びこれをとりまく外的環境を考慮すると,いまかりにこれを廃止した場合には,零細多数の内航海運業者の無秩序な建造競争を誘発し,再び深刻な船腹過剰状態を招来するおそれがあるものと考えられた。従って,長期的にみれぱ,今後の日本経済の発展に伴う輸送需要の増大,内航海運企業の体質改善の達成,内航海運組合の強化による円滑な自主調整制度の確立等によつて,最高限度の設定による船腹規制は,いずれ廃止の方向に進むべきであると考えられるが,今年度においては,なお引き続き最高限度を設定し,船腹量の調整を行なうことが必要であるとされた。この結果,今年度も貨物船および油送船について 〔II−(I)−17表〕のとおり船腹量の最高限度が設定されることとなつたものである。
  これによると,昭和43年6月末現在ですでに建造されることが予定されている船舶を含んだ現有船腹量に対し最高限度量が,貨物船で5万9,000総トン,油送船で5万5,000総トン上回り,この余裕量分については,解撤等の引当なしに船舶を建造できることとなるが,昨年度と同様,日本内航海運組合総連合会において,建造者相互間に不公平を生じないように建造調整を行なうこととしている。このような船腹調整事業は,昨年度設定された最高限度のもとにおいて,建造者相互間の公平と建造引当船の価格の適正化を図るため,12月15日運輸大臣の許可を受けて設定した日本内航海運組合総連合会船腹調整規程に基づき始められたもので,内航の貨物船および油送船の建造等を行なおうとする者は,すべて同連合会の承認を要するものとされ,これに対する建造引当船または上記余裕量の使用については,すべて同連合会が決定する条件に従うこととされている。また,内航船舶を建造引当船として使用しよとする場合も,すべて同連合会の承認を要するものとされている。この場合において,建造船舶および建造引当船について一定の評価を行ない,これに基づき建造者は別途設立された財団法人内航海運安定基金に船腹調整納付金を納付し,建造引当船の提供者は同基金から船腹調整交付金を受けることを通じて需給の調整を図る仕組みとなつている。これにより,昨年度の最高限度設定下において,貨物船建造等11万1,728総トン(建造引当船舶7万8,552総トン),油送船建造等4万2,754総トン(同2万7,205総トン)が承認され,今後の事業者間の自主的活動へ大きく第一歩を踏み出した。


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