5 離島航路事業の現状の問題点


(1) 離島航路の概況

  わが国は,本州,北海道,四国,九州のほか3,600余の小島嶼からなりたっている。離島航路は,離島振興法に基づき指定された離島振興対策地域に係る航路およびこれに準ずるいわば陸の孤島ともいうべき地域を結ぶ航路をいい,42年8月1日現在一般旅客定期航路事業1,071航路の53%に当る563の多きを数える。
  離島は一般にみるべき産業もなく本土に比較して所得水準が低いため,年々人口が減少しつつあり,一部の観光資源に恵まれたものを除き,貨客需要量が少ない例が多い。また,離島住民の所得水準が低いことから,運賃負担力にも限界がある。そのうえ気象,海象条件の悪い外海の航路では,輸送の安全を確保し,欠航率を低減するため貨客需要量に比べて大型の船舶を必要とし,内海の場合に比べて輸送コストは高くならざるをえない。このようないくつかの悪条件が重なつて多くの離島航路事業にあたつては,長年赤字経営に悩み,そのため船舶の老朽化,サービスの低下を招いている。
  離島航路には,単一の航路の場合と多数の航路が競合している場合があり,多数競合の場合には,まず,航路の集約統合を含む合理化を行なうことが先決であろう。

(2) 離島航路事業の助成

  離島航路の多くは不可欠の交通機関であり,これが,赤字経営に悩んでいる場合には,住民の生活の安定ならびに福祉の向上を図るうえからこれを維持し,さらに輸送サービスを向上させるため国は助成を行なう必要がある。国の離島航路助成の歴史は,大正年間にさかのぼるが,27年以来離島航路整備法に基づき欠損補助金を交付するとともに32年に至るまでは船舶建造資金の借入れに対して利子補給金を交付し,34年以降は船舶整備公団を通じて長期低利の建造資金を融資してきた。しかし,これらはいずれも十分な助成にはほど遠いものであった。そこで41年度から従来の「航路を維持するための助成」から脱皮し,航路の改善整備のための助成」へと制度の大幅な改正が行なわれた。ここ数年間の国の補助金の交付状況,とくに41年度からの助成制度の改善による実績欠損額に対する補填率の上昇と対象航路の増加から,補助金交付額は飛躍的に増大してきている。また,船舶整備公団を通ずる融資額も40年度の2億円から43年度の5億円へと年々増額をみている。

  42年度補助金交付航路の収支状況をみると 〔II−(I)−32図〕のとおりであって費用に対する収入の割合は76.2%と41年度に比較して改善をみている。この間の推移を41,42両年度に補助金が交付された47航路についてみると, 〔II−(I)−33図〕のとおりである。まず収入についてみれば,42年度は41年度に比べて25.1%という大きな伸びを示している。42年中は,行楽期に天候に恵まれたことと,また最近の秘境観光ブームの波に乗って観光資源のある離島を訪れる観光客が増加したこと,離島住民の生活水準の向上から貨物輸送量が増加したこと,40,41年中に39航路の運賃改訂が行なわれ,補助対象航路の平均キロ当り運賃が3.72円から3.76円に上昇したことなどがその理由と考えられる。
  ついで経費についてみると,42年度は41年度に比べて,18.2%の伸びを示している。船員費は,年々のベース・アップとともに船型の大型化と運航回数増に伴う船員数増があり,船舶修繕費は,4年に1回の定期検査を受けた船舶が多かったことと,修繕経費の高騰がその原因であり,店費増は陸員人件費のベース・アップ,運転資金借入額の増加に伴う支払利子の増加などがその理由と考えられる。船員費をはじめとする人件費増あるいは修繕費等諸経費の高騰は今後も続くものと予想され,収入がこれに見合つた伸びを示さないとすれば,離島航路の収支改善への道は依然として遠いものと考えられる。
  離島航路のうち,現に補助対象航路となっているものは61航路であって,その他はいぜんとして放置されている。
  このような現状からみて,今後さらに離島航路事業の経営基盤を強化し,航路の集約統合を図るとともに国の補助対象航路を拡大し,離島住民にとってかけがえのない交通機関たる離島航路の整備改善を推進することが必要である。


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