3 造船業の問題点
わが国造船業はここ数年来,世界で独占的地位を占めていたが近年西欧造船諸国は造船業の国民経済に寄与することが大きいことを再認識し,斜陽化を建て直すのに手厚い国家助成を講じ,その企業基盤の強化,国際競争力の育成に懸命で対日巻返しを強力に図つており,わが国造船業も楽観しておれない情勢になつている。わが国造船業がその厳しい国際競争に勝ち抜き,現在の実力を維持していくための条件として大体以下のようなことが考えられる。
まず第一に造船技術の開発である。わが国造船業は優秀な技術者と豊富な労働力を背景に世界に先がけて,造船技術の革新を行なつたため現在の地位を築くことができたといつても過言ではない。すなわち,各種経済船型,巨大船,自動化船,専用船等需要動向に適合した船舶の開発や溶接工作法,ブロック建造方式等の採用による建造コストの低減に成功したこと等によるものである。なお現在では片面自動溶接や洋上溶接等の溶接工作法の採用をはじめ,数値制御方式等技術革新時代に相応しい研究を行ない船舶建造方式の合理化を進めている。その反面コンテナー船,LPG船等酒槽船や一般貨物船と違つて比較的高度の技術を要する船舶建造についてはわが国造船業は西欧造船業に一歩遅れをとつているとも云われ,これら将来需要の伸びが予想される船種の建造に対する競争力も具備する必要がある。
第二として設備の合理化,整備である。わが国造船業は船型の大型化を適確に予知し,世界に先がけて超大型船建造施設の投資と整備を図つた結果,西欧造船諸国に対して超大型船分野ではここ数年圧倒的な地位を占めていたが,近年西欧造船諸国は強力な国家助成により,造船施設の整備を図つており,わが国造船業も安閑としてはおれない状勢にある。さらにわが国造船業は西欧造船諸国の遭遇した労働力の逼迫傾向をみせているが,国家が先進国型経済大系へ移行する際には必ず付随する要素であるので,造船施設の合理化,機械化等造船所の省力化,アンマンド化によつてこのような困難な問題を解決していく必要がある。
第三は輸銀資金の確保と融資条件の維持である。わが国造船業は輸出船の90%近くを占める延払い船の建造に際し,その建造資金の大半を輸出入銀行に依存している。しかし,最近では財政硬直化やわが国造船業の企業基盤に対する実力の過大視傾向から輸銀融資条件を引上げることが具体的に検討されている。西欧諸国が現在造船助成策を一段と強化しつつある情勢の下でわが国造船業が国際競争力を維持し輸出産業として日本経済に貢献して行くためには充分な輸銀資金を確保するとともに,少くとも現行の融資条件を維持する必要がある。
第四は,グループ化の推進である。昭和42年5月海運造船合理化審議会は「今後の造船施設の整備のあり方」について答申を行なつたが,それによればわが国造船業は企業基盤の安定と国際競争力の強化を図るために,施設の近代化,合理化,技術の自力開発,市場の維持,開拓等諸措置を積極的に推進するとともに,企業間の過当競争を極力排除して行く必要がある。
現在これらの効率的かつ円滑な実施を図るため,大手造船業を中心に合併,統合,提携の形で造船業のグループ化が進められている。一方中小造船所は,最近の造船需要の活発化に伴つて大手各社の受注余力が減少したこと,リバティー船代替を主因として中級向け撒積船の需要が急増したこと等により,最近本格的な外航船の建造を目指して設備の拡張を図ろうとしている。これら中小造船所における外航船建造のための設備拡張に際しては技術水準が低く劣悪船舶を建造するおそれがあること,企業体質が弱く輸銀の直接融資対象にならないこと,営業力が弱く過当競争に陥るおそれがあること等の理由により,可能な限り大手造船所と業務,技術提携を行なつている。現在までのところ一応中核6社を中心とするグループにより造船業界は再編成されている。
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