5 地方交通問題


  近年の活発な大都市への人口集中が都市交通問題を惹起している反面,地方においては人口の著しい流出によりいわゆる過疎問題が発生し,地方交通に大きな問題を投げかけている。そのなかで特に人口の流出の激しい地域では地域産業の生塵性が相対的に低く,競争力が弱いために地域産業育成の行きづまり,地域社会における生活環境の維持難など国民経済あるいは社会開発の見地から種々の問題を生じ,さらに今後ますます深刻化していくことが予想されている。昭和35年から40年にかけての5年間に,わが国総人口は4.9%の増加をみたが,この間に人口が減少した市勢村はその数で73%におよんでいる。
  過疎地域における輸送の問題点は,人口の減少が輸送需要の減少とむすびつき,運輸企業経営上大きな支障をきたしていることである。農山村地域住民の足として大きな役割を果たしてきた過疎地域の乗合バスについて代表的20社の輸送状況を示したのが 〔2−2−30図〕である。昭和39年以降,全国の乗合バス輸送量がほぼ横ばいであるのに対して,過疎地域の乗合バスの輸送量は大幅な減少に転じている。これは主として,人口の流出,なかでも外出活動の活発な若年層の流出による輸送需要の減少によるところが大きいが,普通客の減少が定期客の減少に先行し,かつその落ちこみの度合いも高いということは,人口の流出要因以外に,所得水準の上昇に伴い,主として普通客が自家用乗用車に転移するという点も大きく影響していると考えられる。近年の自家用乗用車の普及は目覚ましいものがあるが, 〔2−2−31図〕にみるように,その増加率は人口減少県において著しく,年平均増加率が40%をこしている県が人口減少県に17県もある。これは,地方においては乗合バスの運行回数が少ないことなどのため,自家用乗用車利用の便益が高いこと,近年の生活水準の上昇により車両の購入が比較的容易になつてきたことなどによるものである。沿線人口の減少に加えて,自家用乗用車への転移による輸送需要の減少は,過疎地域を運行する乗合バス事業にとつて大きな経営問題を惹起している。輸送需要がきわめて小量,小単位となると,乗合バス運行による1人キロ当りコストよりも乗用車運行によるコストの方が経済的となり,このような場合には自家用自動車の共同使用を行なうことなどにより輸送手段の確保が考えられるべきであろう。

  国鉄ローカル線と地方中小私鉄についても,沿線の人口減少,自家用乗用車の普及による輸送需要減少の状況は同様である。国鉄の約20,800キロにのぼる営業路線のうち,いわゆる地方ローカル線と呼ばれている約6,000キロの地方路線の輸送量は年々減少を続け,営業キロは全体の30%を占めているにもかかわらず,42年度において輸送量は,旅客約5.6%,貨物約1.5%であり,運賃収入において3.5%を占めるにすぎない。その結果,鉄道輸送の長所である大量輸送による低コスト化が困難となり,年々高騰する諸経費をまかなうことができず,国鉄の経営にとつても大きな負担となつている。
  地方中小私鉄は43年9月末現在で99社,151路線であるが,その輸送状況は 〔2−2−32表〕のとおり年々輸送人員は減少している。42年度の収支状況は99社のうち72社が鉄軌道部門において経常欠損を計上しており,また38年度から42年度までに経営不振により営業廃止した路線の延長は513.4キロに達している。
  このようにローカル鉄道の経営は困難となつてきているが,ローカル赤字線については国民経済的観点および当該地域の実情等を考慮して,鉄道輸送として残すべきものおよび自動車輸送へ転換すべきものを明らかにし,転換すべきものについては,その実現を促進すべきである。

  地方陸上交通事業の経営の悪化は,単に輸送需要の減少によるだけでなく,人件費の高騰を中心としたコストの上昇によるところも大きい。経常経費に占める人件費の割合は,地方中小私鉄,乗合バスのいずれをとつても60%近くに達しており,今後の労働需給逼迫,賃金の上昇等を考慮すると,ますます経営を圧迫していくであろう。人件費の高騰を吸収するために,運賃値上げのみに頼ることは乗客の他の輸送機関への転移や,運賃負担力の点で困難であり,徹底した合理化が必要であろう。それでもなおかつ経営がなりたたないという場合には,その路線の必要性に応じて整理を行なうなり,国または地方公共団体の補助により路線を確保するなりの措置が講ぜられる必要があろう。


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