4 海運における南北問題
国際海運市場は,長年の間ヨーロッパを中心とした先進海運国が支配的地位を占め,そこでは,いわゆる「海運自由の原則」が支配していた。「海運自由の原則」とは海運活動の政府介入からの自由であり,定期船市場においては運賃その地の取引条件や航海数等のサービスの質は海運同盟が決定し,不定期船の分野においても運賃その他の条件は荷主と運送人との間で自由な競争市場において決定されるものであつた。
しかし,このような海運の自由は発展途上国の目からみるとき,いわば「もてるもの」の間での自由,あるいは海運同盟の自由に過ぎず発展途上国としては,自国の貿易品の大部分は先進海運国の海運によつて運ばれ,このため国際収支上の不利を招くと同時に運賃その他の輸送条件も自国の手の届かぬところで決定されてしまい,そのためいろいろの面で不利な扱をうけているのではないかという不満をもつている。
42年の世界海上貿易量(重量ベース)に占める発展途上国の割合は積出しで63.1%,陸揚げで18.7%であるのに対し,その商船保有量は43年年央で1,360万総トンで,世界全体の7.4%にとどまつていることは発展途上国の不満を裏書きしている。
このような状態のもとで,海運問題もいわゆる南北問題の一環として国連とくに国連貿易開発会議海運委員会においてとりあげられ,発展途上国および先進国側それぞれの立場から詳細にわたり議論されている。また,国連アジア極東経済委員会(ECAFE)等の国連地域経済委員会でも海運問題がとりあげられている。
海運に関する発展途上国と先進国との立場の調整がこのようにして行なわれている一方,すでに相当数の発展途上国は,自国関係輸出入貨物の全部または一部の自国船積みを強制するような政策をとりつつあり,また,海運同盟に対し運賃その他の同盟の協定の届出を強制する等,政府の同盟への規制も先進国側の反対にもかかわらず,ここ一,一年のうちに新たに導入される例が目立つようになつた。
国連貿易開発会議第3回海運委員会は44年4月ジュネーブにおいて開催され,発展途上国側は,海運同盟は発展途上国の貿易の拡大,貿易外収支の改善に悪影響を及ぼしていると非難したのに対して先進国側は,運賃と海運サービスの適切性の問題は、船主と荷主との協議機構で処理されるのが合理的であると主張し,最終的には事務局が次回海運委員会に新規加入の条件,運賃引上げの基準等同盟内の諸慣行および種々の決定を行なうに当つての基準等についての報告書を提出すること,および発展途上国のナショナル・ラインのウエイ・ポート同盟への加入問題を検討するための基礎資料となる研究を報告することを骨子とした決議が採決された。
国際海運立法問題については,発展途上国側は,現行の国際条約が先進国に有利に制定されており,発展途上国の利益が十分考慮されていないとの不満をもち,これを検討するため,海運委員会のもとにワーキング・グループを設立することが決定され,用船契約,海上保険,共同海損,船荷証券等が検討されることとなつた。
このような発展途上国と先進国の間の主張を調整することは容易でないが,技術協力等により発展途上国海運の発展を助けることは,問題解決の一助になるものであり,このような見地からわが国においては,新造船,中古船の輸出,港湾関係技術者の研修,港湾工事の援助留学生受入れによる船員養成,造船業に対する資金,技術援助等を行なつている。
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