8 内航海運の直面する諸問題
(1) 解決すべき問題点
自立体制確立への第一歩をふみだした内航海運をとりまく環境をみると,内外両面にわたつて諸条件が激変しつつあり,内航海運が真の意味での近代産業としてさらに成長するために解決しなければならない問題がきわめて多い。
(イ) 輸送構造の変化
第1に,内航輸送量は,わが国経済の成長に伴つて年々増加を示し,今後もこの傾向が続くものと予想されているが,内航輸送は,その量的な拡大にとどまらず,需要構造においても大きな変革を遂げつつある。すなわち,かつて内航の大宗貨物の首位(トン数で40%程度)を占めていた石炭はエネルギー源の石油への転換に伴う生産量の減少により,43年度においては,内航輸送量に占めるシエアは,トン数で,12%へと減少しており,今後さらに減少するものと予想されており,これがそのまま内航輸送量の減少に結びつくものとはいえないが,その内航海運に与える影響は,きわめて大きいものとなろう。
一方,石炭に代つて石油,鉄鋼等が内航輸送に占める比重を増していることは周知のとおりであるが,近年の臨海工業地帯のあい次ぐ造成により,これら主要物資の流動に新たな流れと量が発生することになり,内航海運側でもこれに即応できる輸送体制の整備が必要となつている。
さらに,44年10月に操業を開始する原油輸入基地の設置に伴つて基地/精油所間において3〜10万重量トン型の油送船により原油の二次輸送が開始される。これらの輸送を担当するのは,当面は在来の内航海運業者ではないが,今後,原油輸入基地の増設,他の物品への輸出入中継基地構想の適用,外航コンテナのフィーダー・サービス等も予想されるところから,内航海運の側においてこれらの新しい物的流通体制に即応するための船舶の大型化等輸送体制の整備も要請されてくるであろう。
(ロ) 輸送合理化
第2に,需要者側からの輸送合理化の要請も大きな問題である。わが国の基幹産業における生産段階での合理化はすでに相当高度に進展しており,現在では流通経費の節減による製品のコストダウンを強く要請してきている。そのあらわれの代表的なものは,専用船化の要請である。最近の日本経済の高度成長により,内航輸送需要が臨海工業地帯相互間と,都市間輸送の様相を強く呈しており,これらの輸送における供給の安定と輸送コストの低減の要請に応えるものとして専用船は,その種類と量を増大しており,44年3月末には 〔II−(I)−25表〕にみるとおり,油送船を専用船に含めない場台でも鋼船で,557隻55万3,000総トン(全鋼船船腹量の23%)に達しており,この傾向は今後ますます強まろう。
また,プッシャー・バージ,コンテナ専用船等新しい輸送方式の積極的な導入の要請も強くなるものと考えられる。
(ハ) 船員問題
つぎに,輸送供給側の内部における問題としての船員需給問題については,一般的に陸上産業を含めて労働力不定の傾向が顕著となつていること,内航海運の企業体質がぜい弱なため労働力の定着性に乏しいこと,木船の代替建造政策の進展により鋼船船腹量が増大し,鋼船船員の需要が高まつていること等のため,近時,船員需給はひつ迫の度を強めつつある。内航船員の求人難は,今後,外航船腹の増強に伴う内航船員の外航部門への流出等も予想されるため,一層深刻なものとなると思われるので,この面での抜本的な対応策が必要となつている。
また,船員費は内航海運の輸送コストの30%以上を占めるが,その上昇は,一方で荷主側から絶えざるコストの低減の要請をうけている内航海運にとつて大きな問題である。船員費の大部分を占める賃金についてみると,最近では毎年10%を越える増加を続け,ことに44年4月から5月にかけて,全日本海員組合と内航各船主団体との間で行なわれた賃金改訂にかかる労働争議の結果,賃金総額で約1万円(14.8〜17.4%)の大巾な賃金増加が行なわれ,その処理について業界は大きな困難に直面している。
(ニ) その他
以上のほか,最近の建造船価の上昇も大きな問題である。これを船舶整備公団共有船の建造船価を例にとつてみると,4年間でおおむね25〜40%の上昇をみているが,内航海運企業が今後近代化するために不可欠な新鋭船の建造を進めるに当つて,船価の低減について造船技術面,財政面において強力な対策が必要となろう。
さらに,フェリー・ボートの進展による内航雑貨輸送に与える影響がある。フェリー・ボートは,海陸一貫輸送の特性を発揮しつつ貨物および旅客双方の輸送機関として著しい伸長を示しつつあり,最近では航送貨物の輸送において運転手の搭乗を省略した長距離フェリーも出現している。このようなフェリー化の伸展により,今後,これらとコンテナ船およびロールオン・ロールオフ船を含めた海上貸物輸送体制のあり方についての検討が必要となつている。
(2) 近代化の方向
内航海運の近代化のためになすべきことは,前述の諸問題にてらしてきわめて多いが,主要なものとしては,つぎのものがあげられる。
第1は,船舶の近代化である。内航船の近代化は,前述したとおり,かなりの進展をみているが,輸送合理化の要請船員需給のひつ迫等は,今後ますますその度を強めるものと考えられるので,大型化,コンテナ船を含めた専用船化・自動化等をより一層進める必要がある。このような観点から,内航海運対策終了後の近代化対策として,44年度の財政投融資計画では,新たに近代的経済船(所定の自動化機器を装備した船舶)の整備のための内航船および近海船の代替建造費の一部25億円(6万4,000総トン分)が船舶整備公団に確保され,また既存の貨物船の自動化,船体引延しによる増トン,主機換装等の改造をすすめるための費用の一部について,同公団が新たに3億円の融資をすることとなつた。改造融資については,公団がその業務を行なうため,「船舶整備公団法の一部を改正する法律」が第61回国会において44年7月に成立した。
船舶の近代化の方策としては,このような在来の方式にとどまらず,新しい技術開発の成果,たとえば,機関室の超自動化,無人化,パッケージ化等の採用は,運航コストあるいは建造船価低減の観点から,ひとり外航船にとどまらず,内航の分野においても検討すべき時期にきている。
第2は,企業経営の近代化である。44年10月の許可制の完全実施により内航海運企業は,オペレーターを中心として再編成され一応企業体制の整備が行なわれることとなる。
しかしながら,前述のよらに内航海運のおかれている環境の変化を考えれば,許可制の意義が真に生かされるよう今後一層企業体質の強化とその前提となる経営方式の近代化に努める必要があろう。
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