4 労務状況


  経済の高度成長下における労働力不足はわが国造船業にとつてもまた深刻な問題となつている。
  特に若年技術労働者の不足は労働集約産業である造船業にとつて致命的な問題であり,中小造船業は勿論,大手造船業においてもこれらの労働力の確保,定着対策を緊急にとる必要がある。最近における造船業の特徴として逐年増大する工事量の消化のために他の製造工業以上に勤務時間は長時間化していること及び労働力不足を補うために下請企業への依存度も高まる傾向にあり,下請依存度は平均30%となつている。次に雇用状況では,若年労働者の退職は増加の傾向にありこれを補充するため,次第に未経験工の採用が進み,最近では採用者の半数が未経験工となつている例も珍らしくなく,学歴も中学卒業者の絶対的不足の影響で高校卒業者の採用に重点がおかれている。また,造船労働者の構成をみれば,42年頃迄続いた常用者の補充員としての社外工及び日雇労働者の増加傾向は,43年に至つて減少してきたことである。この主因は,今迄の常用者採用方法としてこれら臨時工員からの採用が慣習的に行なわれていたが,これでは急増する退職者を補充できず,直接常用者の採用に変更したこと,及び定着対策としても直接常用者の採用方法が優れているためと考えられる。
  なお,常用従業員数の増減等については 〔II−(IV)−10表〕のとおり,43年12月は前年同期と比較して6,168人(47%)の増加であつて,大手造船業の3,019人(2.8%)の増加に対し中小造船業では3,149人(11%)と,若干後者の方が増加率は高くなつている。
  この原因は,職員数が減少したにもかかわらず,工員数が増加したことによるもので管理部門の合理化等で職員数の増加を極力制限して生産部門に重点的に配置した結果とみられる。

  かかる状況下における平均月収は,物価上昇と労働力確保策としての賃金率是正等の二面作用により平均月収は,前年同月より5,067円(約10%)の上昇を示しており,元来低廉とされていた造船業の賃金も企業収益率とは余り関係なく上昇の一途を辿る傾向がみられる。
  なお,42年と同様に大手造船業よりも中小造船業の賃金上昇幅は大きくなつている。


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