第1章 情報化社会への展開

  1970年代をむかえて,わが国は引きつづき経済規模の拡大をとげるとともに,情報化,技術革新等の進展を軸として,新しい発展の次元を目指して大きな転換期にさしかかっているといわれている。
  戦後,わが国経済の基本的フレームとして考えられていた諸指標は,1960年代のわが国経済の急速な高度成長の過程を通じて,その様相を全面的に改めるに至ったといっても過言ではあるまい。
  経済規模についてみれば,自由経済諸国においてアメリカに次いで第2位の規模に達し,1人当り国民所得においても西欧先進諸国の水準に近づきつつあり,階層,地域両面にわたって平準化が進行している。産業構造は重化学工業化が著しく進展し,この間に工業国としての産業構造を完成したということができよう。
  さらに,対外環境についても,輸出入規模の拡大を通じて国際化が進展するとともに,これまで成長の制約条件として作用していた国際収支はその天井が著しく高まり・高度成長下においても黒字を維持する経済体質へと180度の転回をとげた。
  このようなわが国経済の成長は,それが単なる量的な拡大を意味するにとどまらず,産業活動,国民生活両面において質的な転換を迫るであろうことは,1960年代の経済規模の拡大を通じても明らかであり,情報化社会,脱工業化社会等来るべき社会についての関心が高いゆえんもここにあるといえよう。
  情報化社会については,情報量が爆発的に増大する社会である,あるいはコンピューターの導入が大幅に進む社会である等多くの議論がなされているが,基本的には,物質やエネルギーと並んで,あるいはそれ以上に情報が,大きな価値をもつようになり,情報の伝達・処理の重要性が飛躍的に増大し,これを中心として多方面にわたる経済的,社会的変革が推進される社会であるということができよう。すなわち,わが国経済は1960年代の高度成長を通じて,工業化会,大量消費社会として成熟の段階をむかえたが,このようなわが国経済の成熟は,産業活動の相互連携化・複合化需要の多様化・高度化を進めており,また産業活動・国民生活を通じてあらゆる活動は,複雑な環境の変化を予測し,諸活動と密接に連携し,変化に即応した機動的な展開が必要とされるようになってきている。このよらな状況は将来の来るべき社会にむけて一層進展するものと考えられ,産業・国民生活ともに情報面において活性化が進むであろう。
  情報化の進展は,経済の拡大,社会の変化と相互に不可分に係りあい,相互に原因となり結果となって進行していくであろう。すなわち,情報化が高度に進展するには,その背景として国民所得の大幅な増大による需要の多様化・高度化,頭脳労働者の増大など経済,社会面での変化が前提とされ,また情報の伝達・処理手段の発展は経済,社会の質的な変化を招くこととなる。
  このような観点から見るならば,情報化社会は,第2次産業優位の工業化社会に対して知識産業,システム産業が主導的役割を果す脱工業化社会であり,1人当り国民所得が4,000ドル以上に達する高度大衆消費社会であり,高生産性の上に立って,国家的には生活関連社会資本が充実し,生活面では所得と余暇が大幅に増加するこにとにより,各人がそれぞれに充実した生活を亨受することが可能となる豊かな社会の到来であるともいうことができよう。
  情報化はそれ自体が目的でなく,真に豊かな社会の建設,運営に当って,その推進役,原動力として大きな投割を果すものといえよう。
 情報化を推進する主役は,情報の伝達手段としての交通・通信および情報の処理手段の革命児ともいうべきコンピューターであるといえるが,これらの発達は1960年代の経済,社会を通じて,その情報化に大きく影響し,1970年代を情報化社会へ大きく歩を進める時代へと推進してきた。
  すなわち,交通についてみると, 〔2−1−1表〕に見るように,1960年代を通じて,輸送施設・交通網の整備,輸送技術の革新,新しい輸送システムの導入が大幅に進み,このような輸送の側の努力を抜きにしては,今まさに情報化社会・豊かな社会への門口に立たんとしているわが国経済の驚異的成長は考えられなかったであろう。

  東海道新幹線の開通は,東京・名古屋・大阪を1日ビジネス圏内におさめ,開業以来5年9カ月で3億人を輸送した。既存の鉄道路線も電化・複線化が進んだことにより著しく時間距離を短縮した( 〔2−1−2図〕)。国内航空輸送の面においても新鋭機材の投入により時間距離は著しく短縮するとともに( 〔2−1−3図〕),路線網の拡充が進み地方主要都市は東京・大阪の衛星都市化しつつあり,その輸送量は年々30〜40%近くの増加を見せ,大衆輸送機関として定着しつつある。国際航空輸送の発展は国際交流を進め( 〔2−1−4図〕),わが国経済文化の国際化を大きく推進している。自動車は機動的に情報を伝達するものとしてその利用を著しく高めモータリゼーションは全国的規模で進行している。
  通信は,情報の伝達を迅速に行なうものとして,その役割をたかめ,その利用は年々増大しているが( 〔2−1−5表〕),これに対応して,電話回線数の増設,マイクロウェーブ網の整備,市外電話の即時ダイヤル化,郵便番号自動読取区分機の導入などが進められる一方,ファクシミリ,テレックス,衛星通信など新技術の開発導入が行なわれた。また,通信回線とコンピューターを接続して行なうデータ通信は,大量の情報の迅速,正確な遠隔処理を可能とし,座席予約業務,銀行業務などにおいて活用されており, 〔2−1−6表〕に見るように近年著しい伸びを見せている。

  コンピューターは,このように通信とむすびついて大きな偉力を発揮するばかりでなく,情報の大量・迅速・正確な処理,情報の蓄積・加工・検索を可能とする特性は,今日の高度に分化し,ダイナミックに発展しつつあるわが国経済・社会にとって不可欠となりつつあり,その設置セット数も 〔2−1−7表〕に見るように5,600台を超え,アメリカに次いで第2位となった。
  以上見てきたように,情報の伝達・処理手段の発達は1960年代において情報化社会へ向っての萌芽を生み出す大きな力となったが,今後それぞれの分野における技術革新を中心とした進展は目覚ましいものがあることが予想されており,わが国経済社会の情報化を大きく進めるものと期待されている。