1 収支の概況
民営鉄道の44年度の営業成績は, 〔I−(I)−22表〕に示すとおりである。
民営鉄道全体についてみると,まず,鉄軌道業では,営業収益は,前年度比6.8%増で,43年度の場合とほぼ同様の伸びとなつている反面営業費用は,例年のべースアツプによる人件費増,物価上昇等による影響を受け,前年度比10.8%増で43年度の対前年比を上回る伸びとなつたため,営業利益は,ここ数年の減少傾向にさらに拍車をかける結果となり,前年度比33.5%の減少となつた。また,兼業では,自動車部門で不採算路線の存在が赤字の原因となつているところも一部にみられて経営が悪化しており,有利な兼業を持たない事業者の累積赤字が増大している。
営業外収支についてみれば,収益は前年度比12.2%増であるのに対し,費用は,前年度比15.6%増を示し,なかでも支払利息は,その88%を占め,前年度比24.8%増となつてますます増加の傾向にあるが,これは他人資本に依存する度合が大きくなつていることを示している。その主な要因は,大手私鉄,地下鉄等の実施している輸送力増強,運転保安工事に伴う社債等の発行と借入金の増大等によるものであつて,経営圧迫の要因となつている。
つぎに,これを大手私鉄,中小私鉄,公営および営団に分けてみると,まず大手私鉄については, 〔I−(I)−23表〕のとおり鉄軌道業営業収益は,前年度比6.7%増であるのに対し,鉄軌道業営業費用は,減価償却費(前年度比14.0%増),人件費(対前年度比12.9%増)の増嵩等により前年度比12.7%増と鉄軌道業営業収益の伸びを上回つており,このため鉄軌道業営業収益は,前年度に比べ実に26.2%も減少を示すに至つた。
兼業部門のうち,自動車事業損益は,42年度,43年度下向線をたどつたが,44年度,さらに悪化して,約13億円の赤字を計上するに至つた。このため従来から運送事業の不振を不動産部門の増収をはかることによって補う傾向はさらに顕著となり,兼業の営業利益は,43年度の場合とほぼ同様に,前年度比36%の増加をみたために全事業の税引前損益は,かろうじて前年度比4.3%増を保つている。
中小私鉄についてみると, 〔I−(I)−24表〕のとおり44年度中に廃止したものもあつて完全な比較とはいえないが,鉄軌道業営業収益は,対前年度比6.1%の増加,鉄軌道業営業費用は前年度比7.3%の増加となつている。鉄軌道業営業損益は,鋼索鉄道でわずかに利益を計上しているのみで全般に経営が悪化し,約20億円の損失となつている。
兼業部門では,一部に不動産業によつて増収をはかつているところもみられるが,概して規模は小さい。しかし中小私鉄全体では一部大規模な兼業の損益を反映して税引前利益を計上している形になつている。
公営の鉄軌道業についてみると 〔I−(I)−25表〕のとおり鉄軌道業営業収益は,前年度比1.6%増にとどまつたものに対し,鉄軌道業営業費用は,前年度比4.4%増と収益の伸びを上回り,鉄軌道業営業損失は,前年度比17.4%増となつて約99億円に達している。人件度については,増加が押えられている傾向がみられるが,鉄軌道営業費中に占める人件費比率は69%と依然として高く,今後の経営合理化に当たつて考慮しなければならない大きな要素であるといえよう。兼業についてみれば,その大部分は自動車部門で占められているが,他の兼業部門を合わせた兼業営業収益は,前年度比0.5%増にすぎないのにもかかわらず,兼業営業費用は,前年度比5.8%増となつたため兼業営業損失も,前年度比131.1%増となって約47億円に達している。また,営業外収益は,国庫補助金,一般会計繰入れ等の増加により前年度比12.2%の増加を示しているが,一方営業外費用も東京都,大阪市等で建設されている地下鉄新線の相次ぐ開通等により,支払利息が前年度比45.2%も増加したこともあつて,36.8%の増加となつている。
以上の結果公営全体の当期損失は,前年度比38.4%の増加となり,44年度の損失額は,約192億円にも達している。
最後に交通営団についてみると 〔I−(I)−26表〕のとおり鉄軌道業の営業収益は,新線開通他路線との直通運輸等による輸送人員の増加を反映し,前年度比17.6%増と大幅に増加し,鉄軌道業営業費用の前年度比21.5%の増加にもかかわらず,鉄軌道業営業利益で前年度比10.0%増となつた。しかし,営業収益に対する支払利息の割合は49%と相変らず巨額のものとなつており,このため税引前損失額は,前年度比57.8%増の約26億円となつた。
このように,地下鉄建設に伴う支払利息が経営悪化の主因となつていること等にかんがみ,公営の地下鉄を含めて,新線建設に対する財政援助の強化が必要と考えられていたが,45年度からは,国の補助金が大幅に引上げられたほか,地方公共団体も国と同額の補助金を交付する措置がとられることとなつた。
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