1 港湾海岸防災事業


(1) 海岸防災事業

  海岸は,国民生活と国力の発展に密接な関係を有するものであるため,これを有効に利用するとともに,これを災害から防護して海岸の保全をはかつてゆく必要性はきわめて大きい。
  44年現在における港湾海岸およびその事業の現況は, 〔II−(III)−17図〕のとおりである。

  新全国総合開発計画では,60年において臨海部における市街地面積94万ヘクタール,市街地人口8,420万人と40年におけるもののおよそ2倍となることを予想している。このように臨海部に富と人口の集中による市街化の進展に伴い全国海岸線総延長27,606kmのうち防護を要する延長13,401km昭和40〜44年度海岸事業実績防護すべき地域がますます拡大されつつある。一方,臨海部の中枢となる港湾都市及び臨海工業地帯は,台風による高潮や地震による津波等による自然災害を被りやすい環境にある。しかも海岸侵食は全国的に見られるところとなり,また主要な臨海工業地帯においては地盤沈下が依然として継続している。
  このように臨海部に対する防災需要は,加速度的に増大しているにもかかわらず海岸保全のための施設整備は著しく立遅れている状態となつている。
  44年現在において,防護を要する港湾海岸線延長の約60%は,なんらかの海岸保全施設があるが,前述の状況にあるため機能の低下,老朽化等が著しくその大部分に亘つて改修を必要としている。一方,海岸保全施設の未設置海岸(要防護港湾海岸の約40%)については,新たに施設を整備する必要がある。

(2) 海岸事業5カ年計画

  災害の未然防止のための恒久的施策として海岸保全の整備事業いわゆる海岸事業の長期計画を策定して国土保全の万全を期する必要がある。
  44年度までは海岸行政を所管する農林,運輸及び建設の3省の協議によつて3省それぞれ計画的に海岸事業を実施してきたが,政府としての統一調整したものではなかつた。そこで,3省は共同して,45年度を初年度とする新たな海津事業5カ年計画を策定することとした。
  計画規模は 〔II−(III)−18表〕のとおりである。

  計画の概要は次のとおりである。

 イ 計画の基本方針

 (イ) 国土保全のための海岸保全施設の計画的整備

     a 海岸保全施設未設置延長(要防護総延長13,000kmの約半分)の計画的解消
     b 老朽施設及び築造基準に達しない施設の改善
     c 砂浜の後退対策の推進

 (ロ) 臨海地帯の開発,利用に適合した海岸保全施設の整備

     a 臨海地帯における生産,流通,レクリエーシヨンなど多面的な利用の現況との調整
     b 港湾改修,レクリエーシヨン開発等,今後の臨海地帯における諸計画との斉合性の確保

 (ハ) 海岸事業の一体化

      海岸行政は,他の行政との調和をはかるため3省1庁に分けて所管されているが,これら関係省庁が相互に統一した整備水準により,計画を調整し,事業を一体として進める。

 ロ 整備の目標

      この5カ年計画により実施する海岸事業の内容は,高潮,津波,波浪その他海水又は地盤の変動による被害から海岸を防護するため堤防,護岸,突堤,胸壁,水門,間門,離岸堤その他の施設を延長約2,400kmに亘つて新設又は改良するものであるが,これを大別すると高潮対策と侵食対策に分けられる。
      このうち,運輸省所管梅津の整備目標は事業実施延長で710kmとなる。
      この結果,5カ年計画の目標とする投資が完了した場合,既往の投資分を含めて,現在の築造基準に定めた施設水準までの整備を完了する海岸の延長は,要防護延長13,000kmの約31%となるが,運輸省所管海岸の要防護延長3,700kmについては,その約40%が整備される。

 ハ 5カ年計画の投資効果

      この計画により新たに人口において約700万人,面積において約30万ヘクタールが防護されることとなり,5カ年計画完了後10か年における累積被害軽減額は,約9,300億円となる。ただし侵食による国土面積の喪失,被災地帯の在庫品等流出,浸水によるいわゆる間接被害又は人命等は計数的に把握できにくいため,含まれていない。

(3) 44年度実施事業

  昭和44年度における港湾海岸防災事業は 〔II−(III)−19表〕のとおり実施した。
  この結果同年度までに港湾海岸における要防護延長の約20%が整備され,引続き45年度からの新たな5カ年計画により事業の促進をはかることとしている。


表紙へ戻る 次へ進む