2 日本の国際航空輸送状況


(1) 概況

  昭和44年度のわが国の国際航空輸送は,わが国経済の拡大,国際交流の活発化に伴う輸送需要の増大を背景に前年度に引続いて順調な伸びを示した。
  44年度の日本航空(株)の国際線の輸送実績をみると 〔III−5表〕のとおり旅客輸送,貨物輸送,郵便物輸送いずれも着実に伸びており,とくに貨物輸送は好調でトンキロで前年度比43%の増加を示した。この結果,有償トンキロは,9億2,500万トンキロと,前年度比33%の増加となつた。

  一方,日本航空(株)の輸送力についてみると,路線運営面では 〔III−6表〕のとおり,シドニー線,モスクワ経由パリ線の開設により路線網の多様化が図られるとともに既設路線の増便が行なわれており,また機材の面からは,新たにDC-8-61型機2機,DC-8-62型機1機,DC-8-55型機2機(貨物機)の投入が行なわれるなど輸送力の増強が図られた。

  この結果,有効トンキロは,17億100万トンキロで前年度比34%の増加となつた。
  また,重量利用率は,以上のように,有償トンキロの伸びと有効トンキロの伸びがほぼ同じであったため,54.4%と43年度と殆んど変らなかつた。なお,世界の国際定期航空における44年の重量利用率は51.9%であるが,これにくらべると,わが国の重量利用率はまだ高いといえる。
  つぎに,わが国の国際航空輸送量の伸びを世界との比較においてみると,44年には世界の人キロ17%,貨物トンキロ35%有償トンキロ21%の伸び率に対し,わが国は,それぞれ31%,55%,37%となつており,いずれも世界の伸び率をはるかに上回つている。この結果,世界の国際航空に占めるわが国国際航空のシニアは, 〔III−7表〕のとおり前年よりさらに上昇して人キロで,4.1%(世界第7位),貨物トンキロで5.0%(同第6位),有償トンキロでは4.4%(同第5位)を占めるに至つた。また,過去9年間をみても 〔III−8図〕に示すようにわが国のシニアの上昇にはめざましいものがある。なお,IATAの国際線輸送ランキングにおける日本航空(株)の順位は,44年には第6位となつている。

  しかし,わが国のシエアは,現在アメリカ,イギリス,フランスはもちろん,第2次大戦後ほぼ同時期に国際航空に進出したドイツにも遠く及ばない状況にある。わが国が米州や欧州と東南アジアとの関門に位置し,国際航空路において枢要な地位を占めていること,わが国経済の高度成長に伴い他国との交流が政治経済,文化等各方面にわたつてますます活発化していることなどを考慮すると,現在のシエアはまだまだ低く,今後いつそうの向上に努める必要があろう。

(2) 旅客輸送

  昭和44年度の日本航空(株)国際線旅客輸送量は,133万3,000人,61億2,700万人キロであつた。これは前年度と比較して人員で29%,人キロで30%の増加であり,前年度とほぼ同じ伸び率であった。旅客輸送が前年度に引き続いて高い伸びを示したのは,北回り欧州線,東南アジア線を中心とする輸送需要の増大および日本航空(株)の市場開発努力によるものである。とくに東南アジア線では観光旅客を中心として日本人旅客の増加が著しく,これが輸送実績の伸長にかなりの貢献をしている。
  これに対し,座席キロは,新路線の開設,既設路線の増便および新機材の投入により116億5,700万座席キロ,前年度比29%増の増加となり,人キロの伸びとほぼ同じであつた。
  この結果,座席利用率は52.6%となつた。
  44年度の旅客輸送実績を路線別にみると 〔III−9表〕のとおりである。
  まず,太平洋線の輸送量は,パシフイツク・ケースの実現にもかかわらず,44年度も着実な増加を示し,伸び率においても前年度を上回つた。これはパシフイツク・ケースによるパン・アメリカン航空,ノースウエスト航空等の新路線開発がいずれも既設路線の振替という形で行なわれ,当初予想されたような大幅な供給増がみられなかったこと,および根強い日本人旅客の需要増に加えて外国人旅客の需要が増大したことによるものであり,座席利用率も50%台に向上している。

  また,北回り欧州線,東南アジア線の輸送量は,前年度に引き続き好調な伸びを示した。これは日欧間における政治,経済,文化等の国際交流の進展,東南アジア方面への観光ブームに伴い著しく航空需要が増大したことと,これに対処して日本航空(株)が新規路線の開設既設路線への増便を行なつた結果である。一方,このような輸送量の伸びにもかかわらず,座席利用率は両路線とも低下しているが,この原因としては次のものが考えられる。すなわち北回り欧州線においては,増便等による座席キロの著しい伸びと他国航空企業の新規乗り入れによる競争激化によるものであり,東南アジア線においては,シンガポール,ジヤカルタ線等比較的長距離路線にDC-8-61型機等の大型機の投入,及び東京〜香港〜マニラ〜シドニー線を8月より開設したことにより座席キロの伸びが薯しかつたことによるものである。
  次に42年3月から運航開始された大西洋線は,座席利用において若干の向上がみられたが,相変らず低調である。本路線は世界で最も競争の激しい路線であるだけに輸送量の向上を図るためには格段の努力が必要であろう。
  南回り欧州線においては,順調な伸びをみせ,供給増が他路線に比し低いということもあるが,座席利用率はここ数年来の最高を示した。
  その他,近距離国際線関係では沖縄線が日本〜沖縄間の経済交流の活発化および観光客による需要の大幅な伸びにより好調な輸送量をみせ,座席利用率も全路線中最高を示したのに対し,韓国線は,人キロ,座席利用率とも前年度を下回つている。これは日本航空(株)の供給増に対し,大韓航空等他国航空企業の大巾な増便が行なわれた結果である。
  なお,モスクワ線は,前年度に比し座席利用率は低下しているが,これは前年度週1便から週2便へ供給がほぼ倍増した結果であり,人キロの伸び率は前年度を上回り順調な輸送量を示した。
  つぎに,わが国に出入した航空旅客について日本航空(株)の積取比率をみると 〔III−9表〕のとおり44年度は37.0%で前年度に比べて0.9ポイント下つている。これを日本人,外国人別にみると,日本人は50.9%,外国人は27.2%であり,いずれも前年度を下回つている。
  このように44年度において,積取比率が前年度より下降したのは,乗員難から日本航空(株)が輸送需要の増大に対応した増便を行なえなかつたことによるものである。
  今後,本邦航空会社の積取比率を高めるためには,日本人旅客の自国機利用を促進し,また外国人旅客の吸収に努力することはもちろん,乗員養成体制を強化し,輸送需要に応じた増便,機材の拡充が行なえるようにする必要がある。

(3) 貨物輸送

  昭和44年度のわが国の国際貨物輸送は,輸送需要の旺盛な増大に伴い好調な伸びを示した。
  44年度の日本航空(株)国際線貨物輸送量は3万7,900トン,3億1,600万トンキロで前年度に比べてそれぞれ36%,43%の増加となり,前年度の伸び率にはおよぱなかつたが,大幅な伸びを示した。

  このように貨物輸送が好調であつたのは,わが国に出入する航空貨物が44年度には9万8,000トン(国際定期航空会社の輸送量),前年度比39%と大幅に増加したこと,さらにこのような輸送需要の増大を背景に,太平洋線において貨物専用便6便,貨客混載便3便,北回り欧州線においてエア・フランス,ルフトハンザと三社共同運航貨物便2便(以上週間便数)を運航するなど貨物輸送力を強化したことによるものである。
  路線別では,太平洋,北回り欧州,東南アジアおよび沖縄の各路線で大幅な伸びを示した。
  また,わが国に出入した航空貨物について日本航空(株)の積取比率をみると〔III-11表〕のとおり44年度には太平洋線の横取比率が向上したため,全体でも33.8%と前年度より0.9ポイントの向上となつた。

  つぎに,貨物の品目別内訳をみると,電気機器類を含めて機械類が最も多く,次いで織物類・衣料・旅行用具,雑貨類,印刷物が比較的高い割合を占めている。機械類は航空機材の技術革新,特定大口割引運賃の導入等により雑貨類,織物類,衣料,旅行用具に代わつて最近急速に比重を高めてきたものであり,( 〔III−12図〕)これからも国際貨物輸送における最近の航空選好の高まりをうかがうことができる。

(4) 航空国際収支

  44年度のわが国の航空国際収支は,前年度,初の黒字計上を達成したにもかかわらず再び赤字に転落した。すなわち 〔III−13表〕のとおり44年度の受取は前年度対比5,700万ドル増の2億6,600万ドルにとどまつたのに対し,支払は9,500万ドル増の2億9,500万ドルとなり,この結果収支尻では,2,900万ドルの赤字となつた。従来,航空国際収支は,赤字縮小の基調をとつてきており,43年度には初の黒字を計上したが44年度には再び赤字に転落した。これは日本航空(株)が,乗員不足から旅客輸送需要の大幅な増大に対応した増便を行なえなかつたため,旅客の積取比率が低下し,その結果旅客運賃収支が悪化したことによるものである。
  今後国際航空輸送市場では,パシフイツクケースの一層の進展に加え巨人機B-747型機の就航による大量輸送時代の到来を迎え,日米間の輸送市場を初めとして著しい供給過剰事態の出現が予想され,わが国をとりまく国際航空の情勢はますます厳しさを加えていくものと思われる。このような情勢の中で,航空国際収支を改善して行くためには,わが国としては,なおいつそう国際競争力の強化に努める必要がある。このためには,新鋭機材の導入と合わせて,国際空港の建設促進,ホテルの確保,貨物集配体制の強化等大量輸送時代に即応する輸送体制の確立,航空機乗員体制の強化,自国機利用の促進等の諸策を推進する必要があろう。


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