3 航空機の運航の安全


(1) 運航の安全確保

  航空機の運航の安全確保のため航空法に基づいて実施する業務には,航空情報の提供,運航規程の認可,機長路線資格審査,運航開始前の検査,立入検査等がある。
  航空情報は,航空機の飛行目的を安全かつ効果的に遂行するため,予定された飛行経路使用飛行場および航行援助施設の物理的諸元,運用状態,気象業務通信業務,航空交通管制業務等の利用可能性およびそれらに付随する規則等を情報として提供するものであり,航空路誌,航空情報サーキユラーおよびノータムがある。航空路誌は永続性をもつた情報を国際民間航空条約の基準にしたがつて収録したもので,各締約国相互間で交換するほか航空会社等関係者にも配付しており,毎月1回改訂版を発行している。航空情報サーキユラーには主として航空の安全に関する管理的事項が含まれ,ノータムは,一時的な情報または利用者に迅速に伝達する必要のある情報を内容とするものである。
  運航規程は,航空運送事業者がその事業内容等に応じて運航の安全を確保するため,運航管理の実施方法,航空機乗組員等の勤務に関すること等を定めたもので,運輸大臣が認可を行なつている。
  定期航空運送事業の高度の安全性および定時性を確保するためには,機長に対して当該航空機およびその就航する路線についての十分な知識と経験とが要求される。このため,はじめてその路線の機長になる者に対しては飛行審査官が路線および緊急操作の実施審査を行ない,その路線資格を認定している。
  また事業の開始にあたつて運航開始前検査を行ない,事後運航規程の実施を確保するため年1回立入検査を実施し,必要のある場合は勧告を行なつて必要な改善措置を講じさせている。

(2) 検査体制

  航空機の安全性を確保するため航空法にもとづいて行なう検査は,耐空証明検査,型式証明検査,修理改造検査,予備品証明検査および指定無線通信機器検査があり,このうち指定無線通信機器検査については,昭和45年6月1日公布の「許可,認可等の整理に関する法律」による航空法の一部改正により,昭和45年9月1日から耐空証明検査に統合整理されることになつたが,検査の実質には何ら変化はなく従前どおりである。
  これらの検査は,国が実施する建前であるが,省力の立場からその一部を民間に代行させるための制度を設けて,耐空証明検査のうち,滑空機に対するものは「耐空検査劇に,修理改造検査の一部を「航空機の修理改造認定工場」に,予備品証明検査の一部を「装備品の修理改造認定工場」にそれぞれ代行させている。
  検査対象件数は,登録航空機の伸びが示すごとく 〔III−28図〕これに比例して近年著しい増加傾向を示しており,このほか,輸出航空機の増加,航空機の大型化および複雑化がさらに業務量の増大を誘発し,前記の代行制度があるにもかかわらず膨大なものになりつつある現状である。
  これに対処するための航空機検査官の定員は現在43名で,業務の円滑化を図るため検査対象の地域的特性を考慮して,運輸省航空局のほか,東京,大阪,名古屋および調布の各空港に配置しているが,急速な技術革新に対処するための研修の強化も必要であり,早急に増員を図る必要がある。
  航空機の検査を行なうための技術的な基準は航空法施行規則附属書第一として「航空機及び装備品の安全性を確保するための技術上の基準」を定め,これにもとづき制定した「耐空性審査要領」を細目として便用しているが,近年における航空機の大型化,高速化,複雑化に対処するための技術上の基準の設定,改廃にあたつては,国際間の協議が必要なものもあり,このため国際民間航空機関の耐空性委員会にはわが国からも出席し,この委員会の委員に選任されて活発な活動を行なつて来ている。
  さらに,航空機の輸出入に際し,耐空証明を相互に円滑に行なうため,輸出国と輸入国の2国間で耐空性に関する協定を結んでいる場合が多く,わが国も米国との間に「耐空性に関する互認協定」を締結し,米国からの輸入航空機の耐空証明および国産航空機の対米国輸出を円滑にすすめているが,一方超音速旅客機コンコードの輸入もきわめて近い将来にせまつているため,同様趣旨の協定を欧州の航空機製造国との間に結ぶ必要が生じて来ている。

(3) 整備体制

  航空機の整備は,主にその飛行時間に応じて各種の作業が繰返されるが,日常整備のような軽度のものから,オーバーホールのような新品同様に生まれ変るというようなものまである。航空運送事業者にあつては,その安全確保の重要性にかんがみ,運輸大臣の認可を受けた整備規程に従って整備を行なうように規制されており,それ以外の自家用者等は,航空機製造者の発行する適切な整備指導書に従つて整備を行なつている。
  整備作業の実施にあたつては,日常整備や定時整備のような比較的手間のかからない,また,設備も必要としないものについては,普通自家整備が行なわれ,オーバーホール等の大作業は,それぞれの専門事業者に外注しているところが多いが,定期航空運送事業者にあっては,定時性確保の見地から自家オーバーホールを行なうところが多く,外注オーバーホールの場合でも,特約の事業者に行なわせている。
  急速に進む技術革新に対処する整備体制を確立するためには,設備投資や整備従事者の訓練を進めるとともに,整備作業の合理化を図ることが今後の課題であり,またこれが安全運航につながるものである。

(4) 研究試験体制

  航空機の耐空性に関する試験研究機関としては,大学や製造者のもの以外に国の機関として,科学技術庁の航空宇宙技術研究所および運輸省の交通安全公害研究所(船舶技術研究所より分離し,昭和45年7月1日発足した。)ならびに電子航法研究所の3機関がある。研究の範囲は多岐にわたり,それぞれの所掌において成果を上げているが,最近の大幅な航空機の性能の向上,航法設備の進歩,および自動化のすう勢のもとで,諸外国に遅れないのみでなく,国際民間航空期間を通じて世界の航空の安全および進歩に寄与するためには,研究所の拡充整備を急ぐ必要がある。

  また,民間における試験研究を促進させるために,試験研究補助金を交付しているが,その成果も着実に上つており,交付実績は,昭和44年度6件に対して1,201万円,昭和45年度4件に対して1,260万円となつている。


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