1 諸外国の対策
地域交通における諸問題,とりわけ都市交通の混雑,地方鉄道,バスの衰退等は世界の先進国においても共通して見られるものである。世界の人人は経済成長と工業化等の産業構造の変化,個人所得の上昇に伴つてその需要や選好を変えてきており,各国とも,都市においては自家用乗用車の増加による交通混雑に悩まされている。同様に,各国とも地方においては,バス,鉄道が人口の減少と自家用乗用車への転移による需要減少に苦しめられている。
モータリゼーシヨンの進展をわが国よりも先に経験した先進諸国は,また,わが国よりも先に行きづまりを生じ,その解決のために公共輸送機関の再建整備を中心とする種々の方策を講じている。
各国の対策には大別して,大都市においては大量輸送機関の整備とそれに対する財政的援助,路面交通における公共輸送の優先,輸送機関相互の連絡の円滑化等,地方においては交通網の再編整備と公共輸送に対する財政的援助等がある。
例えばアメリカでは,急激な都市化の進展により様々な都市問題を生じていることからその解決のため1970年10月に都市大量交通援助法を制定した。同法は,公営・民営を問わず大量輸送機関の輸送施設,機器,技術,方式の改良・開発を援助し,経済的で望ましい都市の発展のために必要な広域都市大量輸送体系の計画,整備を助長することとしている。
また,イギリスでは,1968年に制定された英国運輸沫において,地域の能率的な公共旅客輸送体系の整備を確保するため,旅客運輸地域の指定,同地域内の開発及び輸送計画に関連して公共旅客輸送の全般にわたる計画の作成,総合調整等を任務とする旅客運輸管理委員会,計画の実施主体となる旅客輸送運営公社等の節度を確立した。
フランスでも1971年3月に「フランス都市交通対策大綱」が閣議に提出され,その中でまずパリ地区における公共交通機関優先の原則が明らかにされたが,その具体策の1つとして同5月にパリ地方に所在する事業者に対し「交通関係特別税」を課する溝案が可決された。これは首都公共輸送機関の便益を直接受けているとして,事業主に対してコスト負担の分担を要請するものであり,交通施設の受益者負担の拡大適用の例として注目に値するものである。
西ドイツでも,いわゆるレーバープランの中で都市交通問題の解決のために鉱油税を増額し,その増額分を都市交通問題のみに支出する目的税として全国21都市で近代的な高速電車線を建設し,単に市内交通のみならず近郊交通も統合した新交通秩序を作り出そうとしている。
路面交通の渋滞と公共輸送機関のサービス水準の低下の問題については各国とも非常な関心を寄せており1965年に開催されたヨーロツパ運輸大臣会議において公共輸送サービスの増進と自動車,特に自家用車の交通の規制が必要であるという主張がその解決策として採択されている。
この線に沿つて路面交通における公共輸送の優先については,各国の大都市においてバスあるいはタクシーの専用レーンや優先レーンの設置・駐車規制その他の交通規制における公共輸送の優先が実施されている。中でもパリでは早くからバス,タクシーの優先通行が広汎に実施されており,1970年には中心部64カ所25km郊外部7カ所4kmに達している。さらに中心部約200カ所85km郊外部約100カ所50kmについて優先レーンを検討中である。実施の効果は良好であり,平均速度が上昇し,正確さが向上する等とくにバスのイメージ・アツプに貢献している。
地方における公共輸送については,各国において,主として鉄道赤字線の廃止が国,地方公共団体の財政負担を減じて財政の健全化を図る観点から行なわれ,住民の足の確保のためにはバスによる代替輸送が行なわれてきた。また,存続している鉄道や代替バスの運行に伴う欠損額に対して国または地方公共団体が補助金を支払うというシステムが一般的である。
以上のような各国の施策はいろいろな面で条件の異なるわが国にそのままの形であてはめることには問題があるであろうが,大いに参考になることは疑いない。これら諸国での経験を参考にしつつ,わが国の国情に合つた対策を探り出していくことが必要である。
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