2 今後の方策
(1) 地域の諸機能の合理的配置
大都市交通の諸問題は,その都市の構造上の問題とも密接に関連している。都市の諸機能を十分に発揮させるとともに,良好な居住環境を確保して,住民が高度な生活水準を享受できるようにするためには,都市に集中する各種の都市機能を広域的見地から適切に配置し,一体的な都市圏機能を維持していかなければならない。都市機能の配置とそれらの有機的結合を図る交通体系の整備が,現在の大都市交通問題の解決の主要課題であるといえる。
地方の場合でも,大都市とはまた違つた意味で,地域の諸機能の合理的配置が必要である。とくに,過疎問題は人口の稀薄化から,防災,教育,医療交通といつた生活基盤施設の維持が困難となつているものであり,その解決は,集落の再編等により居住密度を高め,最低の文化水準を保持しやすくする等の方策が不可欠である。
(2) 地域交通のシステム化
地域の諸機能の合理的配置とともに,これらの間を有機的に結ぶ交通システムの確立が必要である。
まず大都市においては,私的な交通手段の利用を無制限に認めることは,都市空間上,環境保全上の制約があり,鉄道,モノレール,バスを有機的に組み合わせた公共交通機関網の計画的整備高規格の道路の建設,交通規制等による既存路面の有効利用のための施策等の方策を推進する一方,新しい輸送手段の開発整備が必要となつている。
このような見地から,大規模団地造成計画との有機的な連けいの下における郊外新線の建設,都心または副都心と直結し,かつ,都心部の地下鉄と相互乗入れを行なう放射状の高速鉄道の整備都心業務地区における密な地下鉄ネツトワークの形成が必要であろう。また,バスについては,環状交通,高速鉄道のフイーダーサービス等効率ある輸送ときめ細いサービスを提供するため,バス路線網の抜本的な再編成を行なうとともに,バスの機能を回復するためその効果の著しいバス専用レーンの設置あるいはバス優先レーンの拡大をはかる必要がある。さらに,高速鉄道との連絡を密にするため,乗継施設の整備の促進,バスの終車時刻の大幅な延長等高速鉄道とバスの運行時間の調整を行なうとともに,大都市周辺の新住宅地ともよりの高速鉄道駅との間の路線バスの運行確保について積極的な措置を講ずる必要がある。このように既存の交通手段の能力を高めるほか,長期的には,安全で公害のない,より利用しやすい新しい輸送手段を組み入れた新しい都市交通システムを考えなければならない。新しい輸送手段としては,現在運輸技術審議会において,各種方式についての検討が行なわれている。
地方中核都市の場合は,大都市とほぼ同様であるが,ここではもつぱらバス路線網の再編成,バス優先レーン,バス専用レーンの設置によるバス機能の向上,バスの終車時刻の延長を中心とした,きめの細いバスサービスの提供等,バスの活用が必要である。
過疎地域等輸送需要の少ない地域においても,集落の再編とともに,交通システムの再編整備が必要であり,社会的,経済的観点から,一定の基準のもとに,鉄道,バス,自家尾車のそれぞれの利用され得る分野を明らかにして,その地域の実状に適応した輸送手段を採用することが必要であり,その際自家用車を公共的に使用すること等の方法による輸送サービスも考えなければならない。
(3) 費用負担の合理化
交通施設の建設および維持に要する費用の負担については,原則として利用者負担によるべきである。すなわち,運賃・料金は,合理的な経営のもとにおける輸送サービスの提供に要するコストを完全に回収するとともに,適正な利潤が確保されるものでなければならない。しかし,各施設の有する公共的性格,機能の相違,産業政策,社会・福祉政策との関連から,例外も考慮しなければならないであろう。たとえば,巨額な投資を必要とし,利用者の負担能力からみて,その費用のすべてを運賃で回収することが困難である都市高速鉄道の建設には,都市交通機能を維持するため可能な限り路面交通の需要を高速鉄道に誘導する必要もあるので,資本費負担を軽減するための措置を検討する必要があろう。
また,都市高速鉄道等交通施設の整備は,その直接利用者ばかりでなく,都市の事業者,沿線の住民などに対して開発利益等の外部経済効果をもたらすので,可能な限りその還元をはかるため,その享受者に対して課税,負担金の徴収等を行ない,交通施設整備のための財源にあてる方策も検討しなければならないであろう。
さらに,シビルミニマムとして維持すべき公共輸送機関,とくに地方の公共輸送機関については,その限られた利用者において費用のすべてを負担することが困難な場合には,利用者の運賃負担の限界をこえる部分について,なんらかの助成措置を検討する必要があろう。
費用負担の合理化と関連して,運賃料金制度の合理化も必要である。運賃料金制度についても,基本的にはコストに基づきつつも,早朝・深夜・休日等の繁閑に企業的配慮を加味した弾力的な運賃,地帯運賃,運賃の通算制,定期割引等交通関係運賃制度のあり方を検討すべきであろう。
(4) 交通施設整備の促進
地域の交通施設の整備は,地域計画の一環としてこれと一体的に行なわれなければならない。とくに,大都市および開発を促進しようとする地域の交通施設については,可能な限り先行的に整備を行なうことが必要である。
しかし,このような施設整備の最大の障害は,巨額の資金が必要であるうえ,投資から供用開始までの懐妊期間が長期にわたるため,企業ベースでの整備が困難であることである。各輸送機関が個別的な計画と個別的な資金調達方式のもとで施設整備をすすめる制度のもとにおいては,各輸送機関間における投資配分の不均衡が生じ,社会的にみて効率的な交通システムの形成が妨げられることになる。均衡がとれた効率的な交通システムを確立するためには,一元的な計画のもとに交通施設の整備を促進する必要があり,企業ベースでの整備が困難な施設,たとえば大規模団地の造成に伴う鉄道の建設等緊急を要する交通施設の施備には,公的な資金の活用による施設整備を検討する必要があろう。
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