2 航空従事者の養成


(1) 乗組員養成の現状

  航空従事者のうち操縦士以外の者については,会社内での訓練,教育機関における養成等でほぼ要員の確保が可能なのに対し,操縦士については,その養成に莫大な経費と長い期間を要するため,国が積極的な施策を講じて養成にあたっている。操縦士のうち,多数の旅客の生命および財産をあずかる定期航空運送事業に従事する者については,とくに高い水準の訓練が要請され,これらの者は,つぎのようにして養成が行なわれている。

 イ 航空大学校

      運輸省の付属機関としておかれている航空大学校は,29年,わが国民間航空操縦士の唯一の専門養成機関として発足し,その養成規模も逐次増大され,今日までに300名余の操縦士を送り出している。養成規模は,乗組員需要の増大に対処するため,46年度から在来の90名から135名に拡大され,これに伴い宮崎本校,仙台分校に加えて,あらたに帯広分校を47年度に設置することとしている。
      修業期間は2年6ヵ月で,その内容は,第1年次は一般教養科目の教育を,第2年次は単発機160時間の訓練をいずれも宮崎で行ない,第3年次は双発機75時間の訓練を仙台で実施しているが,規模の拡大に伴い47年度から単発機課程の一部を帯広に移すこととしている。

 ロ 防衛庁委託養成および防衛庁割愛

      定期航空運送事業者は,防衛庁に委託して同庁の施設と教官により訓練を実施している。その内容は修業時間1年で,学科教育と単発機の実技訓練を行なうものである。定期航空運送事業者はさらに自社においてこれらの者に115時間ないし190時間の飛行訓練を付加し,事業用操縦士の資格を取得させている。
      また,防衛庁の既経験の操縦士を防衛庁の任務遂行に支障のない範囲で,計画的に民間に転出させる(これを「割愛」とよんでいる。)ことにより,民間操縦士を確保するとともに,各社が個別的に同庁の操縦士を採用することを防止している。その人数は,ここ数年平均して20名ないし30名であつたが,45年度から60名に増員された。防衛庁の民間転出者は,他のソースの者に比べ,飛行経験が豊富なため,要員化の期間が短く,機長に必要な定期運送用操縦士の受験資格を充足しやすいので,当面の操縦士不足解消の最有効手段として期待される。

 ハ 定期航空運事業者の自社養成

      航空大学校,防衛庁委託養成および防衛庁割愛のみでは,操縦士の供給がなお不十分であるので,定期航空運送事業者はみずから養成を行なっている。訓練方式は各社において相違があるが,おおむね260時間ないし270時間の飛行訓練を実施している。その規模は,乗組員不足の状況を反映し年々急増しており,46年度は約300名に達している。
      これらについては,各社とも国内に訓練飛行場が求めにくく,また,必要な操縦教官の確保が困難であるため,米国または英国で飛行訓練の大部分を実施している現状である。
      以上に述べた定期各社のソース別養成数の推移は 〔III−27表〕のとおりである。

      不定期航空運送事業および航空機使用事業関係パイロツトの養成は,主として民間の養成機関によつて行なわれており,その他防衛庁からの転出者があるほか,若干の自社養成も行なわれている。なお,回転翼航空機については毎年12名ずつ防衛庁に委託して養成している。
      そのほか,航空従事者の養成制度に関しては45年6月の航空法の改正により,指定航空従事者養成施設の制度が設けられた。これは,航空従事者の資格ごとに一定の訓練課程を定め,これに適合する課程を有する施設を運輸大臣が指定し,その課程を修了した者に対しては試験の全部または一部を免除することとするものである。これにより,主として自家用操縦士,事業用操縦士等の養成の効率化,合理化が進められつつある。

(2) 航空審議会の答申および将来の基本方針

  航空輸送需要の増大に伴い,定期航空運送事業の操縦士は50年度には現在の1.5倍の3,100名,55年度には5,400名が必要になるものと予測されるので,今後とも毎年600名程度の大規模の養成を維持する必要がある。このため,今後の乗組員養成体制についてとるべき具体的方策を審議するよう,45年11月に航空審議会に対し諮問し,つぎのような答申を得た。
 イ 定期航空運送事業の乗員は,基礎課程から一般の航空機乗員と異なつた高い基準の訓練をする必要があるので,国はその基準を策定し,十分指導監督すること。
 ロ 養成体制は,航空大学校のほか,自社養成を積極的に推進し,多元的な体制とすること。
 ハ 航空大学校は,自社養成のモデルとして教育内容をいつそう充実させること。
 ニ 養成は,国内で行なうことが理想であるので,国は早急に訓練用飛行場を整備すること。


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