第2部 市民生活の充実と運輸

  昭和46年度は転換の年であつた。
  国際的には,年末に成立した多国間通貨調整により,従来のいわゆるブレトン・ウツズ体制に代つてスミソニアン体制と呼ばれるものが発足した。
  わが国は,これにより各国中最も大幅な平価の切上げを余儀なくされ,国際協調の面から新たな体制づくりが求められることとなつた。
  国内的には,成長重視型経済から福祉重視型経済へと,基本的発想の転換があげられる。
  この背景となるものは,いうまでもなく,戦後の一貫した成長重視型経済の推進により生活関連社会資本の整備に著しい立遅れを生じたために住宅難,交通難,公害などに代表される国民の生活環境の悪化を招くにいたつたとの認識である。
  今や国民福祉の向上が,わが国の最重点政策理念として,国民的合意の上に立つて力強く推進されようとしている。
  国民福祉の向上,それは地域社会で生活を営む国民一人一人,すなわち市民の日常生活における物質的,精神的充足度の増大としてとらえることができる。
  市民の日常生活と運輸とのかかわり合いは深い。
  運輸は毎日の通勤に交通機関を利用する都市生活者はもちろん,地方の住民にとつても,交通手段の提供者として,あるいは,物資輸送の担当者として,一日も欠かすことのできない存在である。
  このように市民生活と密接なかかわり合いをもつ運輸は,そのサービスの向上をめざして,これまで各方面で,格段の努力を払つてきている。
  その結果,新幹線,フエリー,航空網の充実など,一面では市民の利便は著しく改善されてきている。しかし,幾多の努力にもかかわらず大都市の通勤難をはじめとして,交通事故,交通公害は依然として解消しておらず,過疎地域等の足の確保も問題となつてきており,市民の大きな不満となつている。
  このような観点からこの第2部では,まず第1章において,市民生活の充実してきている面を運輸のサイドからとらえて記述し,つづいて第2章では,今なお市民生活を脅している事故,公害など,運輸の暗い影の部分について,その現状とこれまでとられてきた対策について述べる。最後に第3章においては,このようなマイナス面を克服して,真に豊かな市民生活を創造するため今後とられるべき施策の基本的方向について検討を加えることとした。