第1章 生活基盤としての運輸

  わが国経済は戦後めざましい発展をとげ,大型化,高度化の一途をたどつてきた。それに伴い,国民の生活水準は質量両面にわたつて著しく上昇し,荒廃と貧困のどん底にあつた終戦当時からは想像もできないほどまでに豊かになつてきている。
  とくに35年以降の経済成長は著しく,1人あたりの国民所得は,46年には35年の約5倍と大幅な増加をみせている。代表的な先進福祉国家である英国と比較してみると,35年には英国のわずか31%の所得水準であつたものが,45年には,ほぼ同水準に達し,46年にはこれを追越すなど,所得水準面に限つてみれば,わが国は今や先進福祉国家の仲間入りをしたといえよう。
  このような所得水準の上昇は 〔2−1−1図〕にみられるように消費生活面での向上をもたらし,一般的消費水準の上昇のみならず内容面においても,全生活費のなかで必需的消費である食料費の占める割合(エンゲル係数)が35年の41.6%から45年には,34.2%へと低下し,反面,選択的消費である余暇関係消費支出の割合は年々伸びてきており,消費構造の高度化を物語っている。

  一方,生産性の上昇により労働時間は35年と比較すると45年には,月平均15時間も短縮されてきており,自由時間は大幅に増大してきている。
  このような市民生活の高度化は 〔2−1−2図〕に見るように,交通機関利用量を年々増大させており,市民生活の交通機関への依存度をますます高めてきている。すなわち46年度には,35年度と比較して利用回数で1.8倍,利用キロで2.3倍と増大し,市民の日常活動と交通機関とのかかわりがとみに深まつてきていることを示している。

  また,交通機関の発達は国民所得の増大,自由時間の増加とあいまつて,観光レクリエーシヨン活動を活発化させており,35年と比較して45年には,観光レクリエーシヨン量で約3倍,支出額で約6倍となつている。このような国民の観光レクリエーシヨン活動の発展は市民生活の高度化を促進する重要な要因であり,市民生活をより豊かにしている。
  旅客輸送面のみならず貨物輸送面についても,輸送網の拡充,輸送機関のスピードアツプにより,物資の移動が質量ともに拡大してきている。市民生活に不可欠な食料品輸送についてみると,航空網,長距離フエリーの発達,冷蔵車,通風車等の特殊貨物車の普及により生鮮食料品の遠距離輸送が可能となり,市民の食生活を変化に富んだ豊かなものにしている。
  これまで見てきたように運輸は市民生活の基礎としてますますわれわれに密接な生活手段となつてきているが,運輸はまた,産業基盤として各種産業の発展にも大きく貢献している。
  これまで資源の輸入,製品の輸出が安定かつ円滑に行なわれてきたのも海運の活躍によるものであり,またこのような活躍を可能ならしめたものとして港湾整備の進展も大いにあずかつている。
  国内でも,鉄道,道路,海運を主体とする輸送機関の発達は,物的流通の増大,市場圏の拡大,輸送コストの節減をもたらし,一方では工場の地方分散を促進するなど生産基盤として大きな役割を果たしてきた。
  このように,運輸は,市民生活の充実に直接,間接大いに貢献してきているわけであるが,以下本章では運輸のもたらしたメリツトを時間距離の短縮,利便性・快適性の増大,観光レクリエーシヨン活動の充実の三つにしぼつて述べることとしたい。


第1節 時間距離の短縮

第2節 利便性・快適性の増大

第3節 観光レクリエーシヨン活動の充実