2. 都市機能の分散
(1) 都市集中の限界
まず,人間環境という面から,すでに過密限界に達している大都市地域についての対策が急がれなければならない。住宅問題,土地問題,交通混雑,事故,公害等にみられる今日の都市問題は,集積の利益を求める産業,人口の都市集中によつてもたらされた混雑現象ということができる。とくに事務所の都市集中は,都市がもつ情報密度の高さ,接触の利便,大量需要の存在等によるものであり,この面での利益は,今後ますます高まる傾向にあるところから,都市集中傾向は根強いものといえる。反面,事務所の集中は,人口や新たな都市機能の集中を呼ぶ循環を通じて,過密の矛盾をますます露呈しつつあり,東京,大阪等においては,すでにこのまま放置できない段階に達している。
過密の限界は,とくに,交通,住宅,公園,緑地等の市民生活にかかわりの深い社会資本投資の面にみられる。交通関係については,昨年度の年次報告において指摘したように,集中を放置したままで,その集中に見合つた社会資本整備を行なうことは,費用的にも,空間的にも,また,人間の生活環境の面からも限界に達している。その他の面でも,例えば,47年度経済白書によると,東京都区部については,住宅,公園を適正に確保するとすれば農地,工場をすべて転用しても土地不足を免れないものと試算されているように集中の限界が示されている。
このような集中の限界は,大都市地域における生活環境を早急に改善していくには,生活関連社会資本の拡充を図る一方で,まず,都市集中メカニズムの是正と都市機能の積極的な分散促進が必要であることを示している。都市機能の分散は,また国土の有効利用の観点からも必要となつているものである。
(2) 地方分散の促進
いわゆる分散政策というものは,政府の長期計画としては,35年の所得倍増計画にその萠芽が見られ,39年の全国総合開発計画および40年の中期経済計画以降の各経済計画および国土開発計画においてうち出されたものである。この間,本政策にそつて新産業都市,工業整備特別地域等の整備も図られてきた。これらの政策による分散の成果が必ずしも十分ではなかつた背景のひとつとして,交通施設体系との一体的な検討が不十分であったことがあげられよう。
大都市地域への産業,人口の集中を緩和するために,工場,事務所等の諸機能の分散配置をすすめ,大都市集中メカニズムを是正する施策の基本のひとつとなるものは,交通体系の整備である。
高速鉄道,高速道路,航空等の全国ネツトワークは都市間の貨客,情報の流動を活発化させ,工業を中心とした生産活動の分散を促すとともに,開発可能性を全国にひろげる効果を有している。また,諸機能の分散配置の拠点となる地方中核都市およびその他の地方都市において,公共輸送機関を主体とした交通体系の整備により,広域の交通圏を形成していくことは,これらの都市において今日の大都市にみられる生活環境の悪化を回避して魅力ある都市づくりを行なう基本的な条件であるとともに,過密・過疎問題を緩和する最大の武器となるものである。
もちろん,このような効果はひとり交通施設の整備によつてのみ可能となるものではなく,地方都市機能の強化や魅力ある地方都市の形成のための他の面からの施策と一体的に行なわなければならない。ただ,交通施設の整備は,長期の懐妊期間を要することと用地取得が広汎な利害関係を伴うこと等個有の問題をかかえており,先行整備がとくに必要である。
地方郡部においては,生活基盤の整備が施設維持の面から適正規模に達しないことからその改善が遅れるという問題がある。こうした側面では,地方中核都市との間を有機的に結びつけるきめの細いネットワークの形成により広域的な利用体制を確立することによつて解決することが検討されなければならない。なお,当面の過疎地域におけるシビルミニマム確保のため,地域の実情に適合した交通手段の確保が必要である。
(3) 大都市地域の生活環境整備
人口,産業等の分散を図る一方で,大都市地域の生活環境条件の回復整備が図られなければならない。今日の大都市の抱える諸問題は,都市の構造上の問題と密接に関連しており,都市の諸機能を十分に発揮させるとともに良好な居住環境を確保するには,大都市地域内部においても,都心部に集中している諸機能を広域的見地から適切に再配置しなければならない。
そのため,まず,環境資源多消費型産業を中心とした工場をはじめとして,流通業務施設,事務所,学校等で都心部への立地が必ずしも必要でないものの分散,移転を促進し,道路,公園等整備の遅れている社会資本整備のための公共スペースを確保すると同時に,住宅の高層化が必要である。一方,都心部を追われた事務所等を周辺部の特定地域へ誘導し,交通施設整備と一体となつた副都心および副々都心を形成して郊外部に拡がつている住宅との間で職住の近接を図り,市民にとつて大きな負担となつている通勤・通学難を排除するとともに,交通にかかつている負担の軽減を図つていくことが肝要である。
これらの施策が効果的に促進されるためには,都心,副都心,副々都心,その他分散配置される諸機能を有機的に結びつける幹線交通体系がその中心的役割を果たすものである。
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