4. 地域開発の合理的推進


(1) 地域住民の意思の尊重

  国民全体の福祉の向上を図る上で新幹線鉄道網,高速道路網,航空網等の全国高速交通ネツトワーク,大規模ニユータウン,大規模工業基地等の整備が必要となつてきているが,これに対しては,自然破壊,公害,生活空間の分断などのおそれからの地域住民の反対がみられるようになつており,今後の施設整備の大きな課題となつている。従来のこれらの整備計画が,それぞれの立場から独立に推進され,地域住民に対する配慮が十分でなかつたこともこのような問題の生ずる一因となつている。
  これからは,国民全体の福祉のための国家的計画と地域住民の福祉との調和が図られなければならないが,このため,地域社会の発展に積極的に寄与しうるよう,周辺の土地利用計画も含めて,総合的な地域開発プロジエクトに組み込むとともに,国,自治体,企業,住民が相互に対話を行ない,地域住民の合意をうるルールを確立することが必要である。とくに交通施設の整備によつて利益を受ける地域社会だけでなく,途中通過地として,不利益を受ける地域社会も生ずることとなるので,計画策定の段階で関係地域社会の意思を現在以上に反映させることが肝要であろう。
  なお,地域社会の大きな変革を伴うプロジエクトの計画実施にあたつては,地域住民が不安なく対応できるように地域住民の生活基盤づくりをきめ細かく実施することが必要である。このため,用地取得に際しては金銭補償に加えて生活補償的観点に立つた補償方式の拡充も検討しなければならない。

(2) 用地問題の解決

  地方分散および大都市地域の改造ならびにこれらに対応した交通施設の整備に際して,土地問題が大きな障害となつている。すなわち,大都市地域を中心に地価は年々急激に上昇しており,社会資本整備のコストを著しく高め,投資拡大の妨げとなつている。また,鉄道,道路など陸上交通施設の建設については線的構造の特殊性から用地取得に関する利害関係者が膨大となり,さらに投機的な土地取引が介在するなど,その用地取得が著しく困難となつている。現行の土地収用制度は土地投機を完全に防止することができないため,あるプロジエクトについて地域住民の意思を尊重する立場から事前に住民と話し合いを行なおうとしても,一方でその計画が土地の投機をあおることを考えると慎重にならざるをえないという面もあろう。
  限られた国土を有効に利用するためには,全国的な観点からの国土利用計画が不可欠であり,その実現の可否を決するものは,土地問題の解決である。従来とかく回避されてきた土地に関する私権に対する制限の強化を公共的利益の立場に立つて推進するほか,施設整備による開発利益を事業者に還元する制度等の導入を考慮する必要があろう。


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