2. 余暇の充実
豊かな市民生活を形成するうえで欠かすことのできないものは豊かな余暇生活の存在であろう。日々の業務から離れ,緑深い自然の中に家族連れでゆつたりと休養をとるとか,趣味,教養を深めるための自由な活動時間をもつといつた余暇生活のパターンは,すでに欧米諸国では日常化しているが,わが国においても最近にいたつてその案現の前提となる諸条件が急速に熟しつつある。
すなわち,その第1は,前にも述べた所得のめざましい向上であり,第2は週休2日制に代表される労働時間の短縮の動きであり,第3は交通機関の発達や観光レクリエーシヨン施設の整備である。
労働時間の短縮は,技術革新と産業構造の高度化を背景として徐々に進展してきているが,高福祉型経済への転換が進められようとしているおりから,今後そのテンポを一段と早めようとしている。
これをとくに最近関心の高まつている週休2日制についてみると,30年代後半から一部の大企業を中心に導入され始め,40年代に入つてからの普及状況は事業所単位で43年の2.8%から44年の5.9%,45年の10.4%とここ数年毎年倍増に近い勢いで急速に広まりつつある。
このような労働時間の短縮による自由時間の増大に加えて,交通機関の発達により移動のための拘束時間の短縮がもたらされ,目的地における活動時間が増大してきている。昭和60年の総自由時間は,40年に比べ1.4倍に増加し,総生活時間に占める割合も33%になるものと見込まれており,これら自由時間の増大は,市民の生活時間の構造を変化させることが予想される。
自由時間の増大と所得水準の向上等を背景に市民の意識にも,余暇を一層重視し余暇生活をより積極的に行なおうとする傾向が強まつている。
このような市民の要望に対し,たとえば,第1章で述べたように,交通機関や宿泊施設の充実等の努力をしてきているが,今日,いわば「新たな余暇時代」の入口に立つて,将来の観光レクリエーシヨンを展望するとき,今後の施策の方向として,次の諸点をあげることができる。
第1は観光レクリエーシヨン施設の絶対量の確保である。現在,各地の観光地にみられる混雑は,基本的には,供給量の絶対的不定に起因しているというべきである。そのため,交通施設,観光レクリエーシヨン施設等を整備することにより,観光レクリエーシヨン需要を吸収するとともに既存の地域の混雑緩和を図ることが急務である。
第2は,多様な観光レクリエーシヨン活動に対応した施設の整備である。これからの観光レクリエーシヨン活動は,自然志向型,能動型,滞在型,個人または家族中心型へと変化することが予想される。このようなパターンの変化に対応する健全な観光レクリエーシヨン施設を提供することが必要である。
第3は,自然保護の重視である。観光レクリエーシヨン施設は,国立公園や国定公園などのすぐれた自然の保護に積極的に寄与するとともに,施設の利用者の自然とのふれあいを重視し,自然との調和を損なわないよう十分に配慮しなければならない。
以上のような要請に応え,海水浴場,スキー場,キャンプ場,ピクニツク広場,遊歩道,サイクリングロード等公共的観光レクリエーシヨン施設を中核とし,あわせて宿泊施設その他の多様な施設を整備した大規模な観光レクリエーシヨン空間を確保することが必要である。
この観光レクリエーシヨン空間は,大量の需要に即応するものであることにかんがみ,新幹線鉄道等の基幹交通施設整備との整合を図らなければならない。これと並行して,自然公園その他の既存の観光地においても,宿泊施設,レクリエーシヨン施設等を適正に配置し,さらには,過疎地域の振興にも資する青少年旅行村等の新しい受入れ地を整備することによつて,多様な選択のなかで,豊かな余暇を過ごすことのできる基盤を築いていくことが必要である。
なお,これらの施設整備等により顕在化される大量の観光レクリエーシヨン需要を快適に満足させるためには,交通機関や宿泊施設の情報提供や予約機能を含んだ観光情報システムともいうべきサービス体制を確立することが必要である。
以上述べてきたような供給面での諸施策の促進とともに,観光レクリエーシヨン需要構造の適正化も同時に必要となつている。
現在の観光レクリエーシヨン活動を見ると,週末とか特定の時期に集中しており,波動性が極めて著しい。そのために,交通機関の混雑,宿泊施設の不足が増幅されている。
今後は輸送面,施設面での改善の強化とともに,休暇制度の改善により,分散による需要の適正化が図られねばならない。
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