1. 収支の概況


  民鉄の46年度の営業成績は 〔I−(I)−26表〕に示すとおりである。
  民営鉄道全体についてみた場合,まず鉄軌道業については,営業収益が前年度に比べ11.1%増にとどまり,15.1%増であつた前年度に比較して伸び率はやや鈍化した。これは大手私鉄および交通営団が昨年度なみの伸び率を示したにもかかわらず公営交通が45年度の実績を下回る結果になつたためである。営業収益の伸び率が鈍化した一方,営業費用については,物価上昇,ベースアツプ等の影響を受けながらも,45年度に比べ8.3%の増加にとどまつたので営業利益は45年度に比べ54.3%の増加となり45年度における対前年度伸び率の2倍以上の伸び率となつた。また兼業では自動車部門の営業成績は人件費増,不採算路線等のためますます悪化しているが,不動産,レジヤー等の部門で利益をあげ兼業全体の利益は45年度に比べ2.1%の増となつた。営業外収支についてみると,営業外収益は45年度に比べ12.2%の増を示しながら,営業外費用が前年度に比べ,15.3%の増となり収支は45年度よりさらに悪化した。支払利息は営業外費用全体の89.5%を占め45年度に比べ16.2%の増となりますます増大の傾向にあるが,これは他人資本に依存する度合が依然として大きいことを示している。その主な原因は大手私鉄,地下鉄等の実施している輸送力増強,運転保安工事等に伴う社債等の発行と借入金の増大等によるものであつて,営業利益の伸びにかかわらず経営圧迫の要因となつている。
  つぎに,大手私鉄,中小私鉄,公営および営団別についてみると,まず,大手私鉄については,鉄軌道業営業収益は前年度に比べ15.1%増と45年度とほぼ同様の伸び率を示した。これは45年10月の運賃改訂の結果によるものと思われる。これに対し鉄軌道業営業費用は,人件費(前年度比9.9%増),経費(前年度比9.6%増)共に増大したが,合理化等の企業努力により,全体で45年度に比べて9.8%増にとどまり,45年度における伸び率(15.5%増)と比較してかなり下回る結果となつている。このため,鉄軌道営業利益は45年度に比べ,56.3%増と大きな伸びを示した。
  兼業部門についてみると,自動車部門では不採算路線の整理,ワンマン化率の向上等にもかかわらず,交通渋滞等の影響は大きく,30億円近い赤字を計上した。
  一方不動産部門の営業利益は45年度に比べ13.6%増と着実な伸びを示したが,兼業部門全体の利益は45年度に比べ5.7%増にとどまつた。しかし,運輸部門の利益だけでは配当等の利益処分に不十分なため,その不足を不動産を中心とする兼業の増収をはかることにより補う傾向に変わりはない。
  中小私鉄は46年度中に不採算路線約154キロが廃止され,完全な比較にはならないが,鉄軌道営業収益は45年度に比べ4.4%増と,昨年の伸び率17.5%をかなり下回る結果になつた一方,営業費用は45年度に比べ7.4%増と収益の伸び率を上回り,営業損益は約17億円の赤字を計出し,45年度の約2億円の赤字を大幅に上回つた。
  兼業部門についてみると,自動車部門では約19億円の利益をあげており,また不動産業,レジャー産業等の部門でも利益をあげているが概して規模は小さい。中小私鉄の場合,一部に電力,鉱業等の大きな兼業部門をかかえているため,それを反映して兼業部門全体では約900億円の利益を計上しており,営業外損益等を含め全事業では税引前利益で約400億円を計上した。
  公営交通についてみると,鉄軌道業営業収益は45年度に比べ約2.6%の減少を示し,また営業費用も45年度に比べ0.7減%とわずかながら減少した。これは,路面交通の不振,札幌市,名古屋市,京都市等での路面電車の撤去が進められた結果である。
  営業収益,営業費用ともに45年度に比較して減少したものの営業収益の落ち込みが大きく,そのため営業損失は129億円を計上し45年度に比べ5.8%増となつた。兼業部門についてみると公営交通の場合その大部分は自動車部門で占められるが,その営業収益は交通事情の悪化等により45年度に比較して減少している一方営業費用は物価上昇,人件費増,さらに路面電車の廃止に伴うバスへの転化等により増大したため,営業損失は,45年度に比べ53.6%も増大し,約121億円の赤字を計上している。
  兼業部門全体としてみても45年度に比べ58.4%増の赤字を計上している。営業外収支については,営業外収益が地下鉄事業に対する国庫補助金,一般会計補助金等の増大,路面交通再建に伴う財産処分等もあつて45年度に比べ10.3%増となつた反面,営業外費用については,支払利息が地下鉄事業の負担が大きく対前年度比7%増となつたものの全体としては5.1%の増にとどまつたため,45年度に比較してやや赤字が減少した。しかし,営業面での損失の増大が大きく,前期損益修正等を加えた当期損失は45年度に比べ14.1%増となり,302億円もの赤字を計上した。
  最後に交通営団についてみると,46年度当初の新線開通.国鉄常磐線との相互直通運転等により,定期,定期外あわせた乗車人員が45年度に比べ13.2%増となつたため,41年1月以来運賃は据え置かれていながらも鉄軌道営業収益は14.2%増となつた。しかしながら,物価上昇,ベースアツプ等を反映し営業費用は45年度に比べ21.3%増となつたため,営業利益は,81億円余にとどまり,45年度に比べ4.1%の減少となつた。営業外収支についてみると,国と地方あわせて,46年度約56億円の補助金を受けながらも,営業外費用中の96%を占める支払利息の負担は大きく,その結果税引前で45年度に比べ24.6%増の約52億円の赤字を計上し,累積欠損は148億円にも達した。


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