3 緊迫化した海運の南北問題
開発途上国は,国際収支の改善のためには自軍商船隊の保有および海士運賃,海上サービスの提供等の役割が重要であるとの認識より,自国船優先政策,定期船同盟に対する政府干渉等の国際海運活動に対する政府規制を強めつつある。かかる開発途上国側の動きは国連貿易開発会議(UNCTAD)の海運委員会等の場で決議等の形で実現されつつあり,最近では,とくに国際海運制度の全面的な改変を要求し,また,現在自由な海運活動が行なわれている分野についても,開発途上国に有利な形での条約協定化を迫つている。
このような情勢の下に開かれたUNCTAD第3回総会(47年4月13日〜5月21日,チリのサンチヤゴで開催)において,海運については第4委員会において「商船隊の開発」,「港湾の開発」,「海七運賃」,「海運における経済協力」,「定期船同盟憲章」の5つの問題について,白熱した論議が展開され,各問題ごとに決議が採択された。この5つの問題のうち開発途上国が最も力を入れていた問題は,「商船隊の開発」および「定期船同盟憲章」の2つであつた。これらの問題については,次に詳述するが,そのほかに注冒すべき問題は「海運における経済協力」の問題であつた。この問題は,今次総会で社会主義諸国から突如提起された問題であるが,これはUNCTADの場において国際海運に関する海運政策の調整に関する問題を討議し,必要な場合にはその協定化を図ろうとする趣旨のものであり,決議では,この問題を,今後UNCTAD海運委員会で討議し,その結果を貿易開発理事会(TDB)に報告することになつているので,その推移に注目する必要がある。
(1) 商船隊の開発
1970年代の最終年までに,世界総船腹量に占める開発途上国の保有船腹量の比率を1970年の7.1%から10%に引き上げるために,先進海運国に対し,資金,技術援助の拡大のほか,一般的な船舶輸出信用条件の優遇措置,造船船台の10%を開発途上国向けに確保すること等の要求がなされた。これに対して,先進海運国側は,商業的に可能でかつ適当なものについては政府としても努力するとの原則のもとに合意した。
(2) 定期船同盟憲章
本問題は,今次総会において最も論議の集中した問題であり,開発途上国側は,次に掲げる事項を内容とする「開発途上国側憲章草案」を提出し,憲章の条約化を主張した。
イ 自国に関係する定期船同盟への自国船社の加入を自由化する。
ロ 航路の輸送シエアを貿易両当時国間で50:50とし,さらに第三国船が参加する場合は,関係両国および第三国で40:40:20とする。
ハ 開発途上国の輸出促進のために特恵優遇運賃を設定する。
ニ 船主と荷主の協議機構を設立し,これに関係政府が参加する。
ホ 運賃値上げに関する具体的手続(運賃据置期間の設定,事前予告)を定める。
ヘ 船主と荷主の紛争処理のための強制的な仲裁制度を設ける。
これに対し,先進海運国側は,開発途上国側が要求する形での早急な憲章の条約化は受け入れがたいとして反対の立場を堅持した。このため決議案をめぐつて最終日まで折衝が行なわれたが,結局,開発途上国側の強行採決によつて,「47年秋の第27回国連総会において,48年早期の憲章条約採択全権会議の開催及び準備委員会の設置を決議する旨の勧告」が決議され,また,憲章条約検討の基礎になるものとして,開発途上国側憲章草案が決議に添付された。
今後は,定期船同盟憲章問題に関する先進海運国と開発途上国との折衝の場は,国連総会に移ることとなつたが,これに対処するため先進海運国は,日本および欧州の13カ国で構成するCSGおよびCSG諸国に米,加,豪の各国の加わつた「経済協力開発機構(OECD)の海運委員会」の場において,開発途上国側の憲章草案が内包している次の5つの基本的原則について協議を行なうこととしている。
イ 国際海運に対する政府規制の問題
ロ 船主と荷主間の紛争を強制的に仲裁に付する問題
ハ 同盟憲章の履行に関する政府の監督の問題
ニ 同盟憲章内において開発途上国にのみ一律に優遇措置を設ける問題
ホ 国別積取比率の設定問題
このような,開発途七国側の主張する国家主権による自由な海運活動への介入を内容とする同盟憲章草案が性急に条約化されることとなれば,世界の海上輸送に無用の混乱が生じ,効率的な輸送サービスの提供が阻害され,国際海運秩序の崩壊をきたすことも懸念される。
したがつて,先進海運国および開発途三国は,互いに協力して新しい国際海運秩序形成の出発点となり,しかも世界的に受諾可能な同盟憲章の制定に努める必要があろう。
わが国としても,世界の海運および貿易活動において指導的な地位にあることを自覚し,今後も開発途上国に対して商船隊の充実,港湾の開発,船員の教育などのための資金および技術士の援助をより一層強化し,開発途上国海運の育成を図るとともに,このような同盟憲章の作成に努力を重ねる必要がある。
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