4 法制化が急がれる油濁損害賠償制度
昭和42年3月18日の英仏海峡で起きたトリー・キヤニオン号の座礁に伴う油濁事故(6万トンの原油が流出)以後,海上における油濁事故の重大性とその対策の必要性が,タンカーの大型化傾向ともあいまつて国際的に認識されるに至つた。わが国においても,46年1蝿30日に新潟沖においてジユリアナ号(リベリア籍11,684総トン)の原油流出事故が発生し,タンカー事故の防止と油濁事故に対する責任の明確化がクローズアツプされた。
現在船舶が第三者に与えた損害の賠償については商法が規定しているが,船主は船舶を被害者に委付すれば責任を免除されることになつており,時代にそぐわないものとなつている。このため1957年に採択された船主責任制限条約の批准とその国内法化(商法の改正など)が準備されているが,この条約は損害賠償の金額主義への移行とトン数比例によつて船主の責任額を制限できること(トン当り約2万2,000円)を主な内容としている。
一方油濁事故については,この条約と特別法の関係に立つ油濁民事責任条約(1969年採択未発効)がある。この条約はタンカーによる油濁事故についてその重大性にかんがみ責任制限額の引上げ(トン当たり約4万4,000円,1事故当たり総額46億円まで)を図るとともに,タンカー所有者の厳格責任(異常な天災地変,社会的動乱の場合を除き免責されないこと),これらを担保するための強制保険の採用といつた画期的な制度を定めたものである。しかしこの責任制限額によつても被害者の救済が不十分な場合があること,および荷主である石油業者も協力する必要があることから,1969年条約を補完する国際基金条約がブラッセル外交会議において,1971年12月に採択された。この条約は,石油業着の拠出金により国際的な基金を設け,1969年条約によつてカバーされない被害者の救済を1事故当り約100億円まで行なうとともに,タンカー所有者の負担の一部を填補しようとするものである。
わが国の主要エネルギー源である石油の輸送がほとんど海上輸送によつていること,また甚大な被害をもたらすタンカー事故の危険性,ふくそうする海上交通の現況からみて,事故防止措置の充実とともに油濁に対する損害賠償度を早急に実現することによつて,被害者の保護と石油の海上輸送の健全な発展を図る必要がある。とくに,わが国は世界のタンカーの11%を保有し,世界の石油の海上輸送量13億トンのうちわが国の輸入量は2億2,000万トンと17%を占めているので,その動きが国際的にも各国から注目を集めており,これらの条約を早急に批准する必要がある。
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