2 海上交通安全法の制定
従来の海上交通法制としては,前項で述べた港則法のほかに海上衝突予防法があるが,これは二船間の交通ルールを基本とした衝突予防に関する世界共通の一般原則を定めたものであり,限られた場所に多数の船舶が間断なく往来する海域における交通ルールとしては不十分なものである。このため,東京湾,伊勢湾,瀬戸内海というわが国の沿岸水域でも最も船舶交通がふくそうしている海域における船舶交通の安全を図るための特別の法制を整備することがここ数年来の海上交通安全対策上の懸案であつた。
東京湾等の安全確保のための法制の整備は,39年頃から検討に着手し,その後43年4月と44年2月の2回にわたり「海上交通法案」をまとめたがいずれも漁業関係者との調整がつかなかつた。
今回は前2回の経緯にかんがみ,法律制定の必要性について漁業関係者の基本的な認識と了解をうることに努めるとともに,法文上も海域が船舶交通の場であるとともに,漁業生産の場でもあるという立場から両者が共存共栄を図ることを建前とした。その結果,46年11月,新潟港で発生したタンカージユリアナ号車故の経緯からみて,漁船を含む海上交通全体のためには特別の法制を整備することが必要であるという了解をうるに至り,海上交通安全法が第68回通常国会において成立した(昭和47年法律第115号)。
この法律は,船舶交通のふくそう化がとくに著しく,巨大タンカーがひんぱんに出入している東京湾,伊勢湾,瀬戸内海を適用海域とし,主要港湾に通ずる浦賀水道,伊良湖水道,明石海峡,備讃瀬戸等の主要狭水道を主体に11の航路を設定して航路航行義務,航路航行船と他の船舶との避航関係,速力制限,横断禁止,一方通行等の特別の交通ルールを定めるとともに,工事・作業の実施または工作物の設置を許可あるいは届出の対象とするなど,危険防止のための規制を行ない,これらふくそうする海域における船舶交通の安全を図ることを目的とするものである。
とりわけ,操縦性能の鈍重な大型タンカー等巨大船については,あらかじめ航行予定時刻等の通報を求め,進路を警戒する船舶の配備その他運航に関し必要な事項を指示する等規制を厳しくする一方,航路航行中は操縦の容易な他の船舶が巨大船の進路を避けることとしている。
なお,この法律は,公布の日から1年以内に施行される。
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