3 航空をめぐる国際関係
(1) ICAOとの関係
ICAOは,昭和19年シカゴで制定された「国際民間航空条約(シカゴ条約)」に基づき設立された国連の専門機関で,国際民間航空の安全で秩序ある発達及び国際航空運送業務の健全かつ経済的な運営を図ることを使命としている。我が国は,28年10月にICAOの第61番目の加盟国となつた。その後31年にICAO理事国となり,43年の第16回総会では航空運送において最も重要な国を代表するいわゆるAカテゴリーの理事国に初めて選出され,46年の第18回総会においても引き続き選出された。理事会及び航空委員会は,常時開催され,専門的な問題の検討には随時専門部会等の会議が開催されている。47年度中に我が国が参加した主な会議は,第1回ソニック・ブーム委員会,制裁条約に関する法律小委員会,第20回法律委員会,ワルソー条約改正に関する法律小委員会,第3回航空機騒音委員会,第8回出入国簡易化部会,第1回航空機事故調査報告パネル及び第10回耐空性委員会等である。
イ 制裁条約に関するICAO法律小委員会
航空機のハイジヤツク,武力襲撃等に対しては,「航空機内で行われた犯罪その他ある種の行為に関する条約」(38年に東京で作成),「航空機の不法な奪取の防止に関する条約」(45年にへーグで作成)及び「民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」(46年にモントリオールで作成)の3条約が作成され,これらの行為を行つた犯人の拘束,処罰,引渡し等の措置について各締結国の義務を定めているが,3条約への加盟国が増加しない等の理由により,それらの措置が十分に守られずこの種の事件を頻発させていた。そこで,こうした義務を履行しない国に対して,各国が共同して航空の分野において制裁措置をとり,この種の犯罪を未然に防ごうという趣旨で,制裁措置に関する条約の作成が45年のICAO理事会で決議された。その後,制裁条約の案文の作成作業は法律上の問題点等から時中断されていたが,47年6月に理事会で作業再開が決議され,それをうけて47年9月に制裁条約に関する法律小委員会が開催された。しかし,この小委員会では,各国の利害が対立したことから,条約の統一的な草案をまとめるに至らず,結局数か国から提案された案文をそのままICAO法律委員会に提出することとして事態を収拾した。
ロ 第20回法律委員会
上記イの法律小委員会での討議をうけて,48年1月にモントリオールで第20回法律委員会が開催された。本法律委員会においても草案を作成するには至らなかつたが,制裁条約に関するいくつかの基本的原則が決定され,条約作成の具体的な方法についても,シカゴ条約を一部改正する方法と,独立の多数国間条約を作成する方法の2つにしぼられてきた。そこで法律委員会は上記2つの方法にしたがつて条約案文を作成するため,ICAOの臨時総会と外交会議を同時に開催するようICAO理事会に勧告した。この勧告をうけてICAO理事会は,48年8月にローマにおいてICAO臨時総会及び外交会議を同時に開催することを決定している。
ハ ワルソー条約改正のための法律小委員会
この小委員会は,47年9月から10月にかけてモントリオールで開催され貨物及び郵便物に関する運送人の責任についてのワルソー条約の改正の問題を討議した。しかし,この小委員会では貨物に関する責任原則その他重要な問題については何ら決定的な勧告を出すに至らないまま,次回討議を法律委員会で行うことが決議された。ただし,郵便物については,運送人は郵政当局に対してのみ責任を負い,発信人は直接運送人に責任を追求できないものとするという英国の提案が大筋で各国の賛同を得,法律委員会に送付されることとなつた。
(2) 2国間協定
ある国との間に定期航空路を開設するためには,通常その国との間に2国間の航空協定が締結されねばならない。また,航空協定の締結後に路線,運航便数の変更等を行うためには両国の航空当局の協議による決定が必要である。
我が国は,48年7月現在仮署名のものも含めて,30か国との間に航空協定を締結している。これに基づいて日本航空は,我が国の指定航空企業として北部・中部太平洋線,北回り・南回り及びシベリア経由欧州線東南アジア線,オーストラリア線等を運航しており,世界34都市へ週172便にのぼる定期便の乗り入れを行つている。
47年10月には,ギリシアとの間に航空協定締結交渉を行い,協定案文その他の附属文書について合意に達した。そして,48年1月には,これらの文書に正式署名を行つた。同協定の批准までの暫定的措置として,日本航空は,47年11月からギリシア政府の特別な許可により,南回り欧州線を週2便アテネに寄港させている。
日米間には,長年にわたる航空権益の不平等の問題が存在しており,我が国はこれまでの交渉により,ニユーヨーク経由世界一周線,アンカレツジ経由ニユーヨーク大圏コース及びグアム線等を獲得したが,なお両国の航空権益の間には,中南米以遠権の制限シカゴヘの乗り入れが認められない等の大きな不平等が残つており,我が国政府は機会あるごとに,これらの是正を米国側に要求している。しかし,こうした要求に対し,路線の価値をめぐり両国間には大きな懸隔が存在するので,今後も日米間に懸案を残すことになると思われる。
中国との航空関係については,47年8月,日本航空(株)及び全日本空輸(株)が初めて不定期便を東京-上海間に運航して以来,総理訪中特別機の東京-北京間運航をふくめ,すでに28便(48年8月1日現在)の不定期便を運航している。
また,中国民航も,48年3月,駐日大使赴任特別機を北京-東京間に運航したほか,4月及び5月にも不定期便を計3便運航した。日中間に定期航空路を開設するための航空協定については,47年9月の両国政府の共同声明に則り,その早期締結を図るために,48年3月に第1回目の予備交渉を行い,同年4月には第2回目の予備交渉を行つた。
これまで,我が国をめぐる国際航空路線の発展は著しいものであつたが,今後の国際航空路線の発展のためには次のように難しい問題が存在している。すなわち,我が国の国際空港においては,処理能力が限界に達していること,騒音問題が深刻化していること等により便数の増加が極めて困難な状況となつているが,2国間航空協定においては原則として相互主義の観点から相互に同便数を運航することが保障されねばならないのである。我が国の空港事情によつて相手国の乗り入れ便数を制限すれば,我が国の乗り入れ便数についても同じような制限を受けることになる。それゆえ,我が国をめぐる国際航空路線の発展のためには,空港問題,騒音問題等に対する配慮を十分に払い,これらの問題と調和を図ることが要求されている。
(3) 国際チヤーター運送をめぐる各国の動き
航空路の発達や機材の大型化により低廉で簡便な航空輸送が可能となり,国際航空輸送の大量化,大衆化が進んでいる。これとともに団体観光旅行を中心としたチヤーター需要が年々増大しているが,従来の定期航空優先の考え方では,こうした需要に応じきれなくなつている。このような背景から,近年欧米各国政府は従来の制限的なチヤーター政策を緩和しつつある。このような動きの先駆けとなつたのは,47年9月の米国政府のTravel Group Charter(Non-affinity Charter)の採用である。これは従来のチヤーターに課されていた条件を大幅に緩和して,一般の旅行者が平等にチヤーターを利用できることを目的とした制度である。米国に次いでカナダ,英国,フランス,ドイツ等もTGCに類似したAdvance Booking Charter等の新しいチヤーター制度を導入し,大西洋線については,これらの新しいチヤーター運送が次々に行われつつある。運輸省は,こうした新しい国際航空情勢に対処するために調査,研究を行つている。
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