1 企業の合理化と公共輸送機関の利用促進


  輸送原価低減のためには,経営の合理化,近代化が不断に図られなければならない。前節でみたとおり,運輸業,とりわけ鉄道,バス,トラック等の陸上輸送機関においては費用全体に占める人件費の割合が極めて高いだけに,近年における労働力不足の深刻化,大幅な賃金上昇はこれら事業の経営を大きく圧迫しており,経営の合理化,近代化の必要性はますます高まってきている。
  このため運輸事業者は輸送の効率化,省力化等により経営の合理化に努めてきた。
  すなわち,輸送機材の大型化,専用化,荷役の機械化,コンテナ化等輸送形態変革等による効率化省力化等の合理化のほか,鉄道では出改札業務の自動化,駅の無人化・集約化,自動車ではワンマン化等きめの細かい対策が推進された。この結果,従業員1人当たりの物的労働生産性は, 〔2−2−22図〕のとおり,全般的には上昇傾向にある。ただこの中にあって,バス,タクシー,トラック等,路面交通機関の生産性が,昭和48年度下向きになったことが注目される。いずれにしても,経営の合理化は今後とも積極的に推進する必要があるが,運輸事業が一般的に労働集約性が高いこと,抜本的な輸送改善には莫大な資金を要することなどから経費の上昇を企業の合理化努力のみで吸収することは極めて困難である。
   〔2−2−22図〕でみたとおり,路面交通機関の物的労働生産性は,企業の合理化努力にもかかわらず路面交通の混雑により下向きの状態にある。路面交通の渋滞に基づく輸送効率の低下については, 〔2−2−23図〕のとおりであるが,これらの業種にあっては,輸送効率の低下が,人件費の膨張とともにその経営を圧迫する大きな要因となっている。

  このうち,バス輸送については45年度から大都市を中心にバス優先レーンが設定され,46年度にはバス専用レーンが設定されるなどの改善策がとられているが,レーン設定には道路幅員からくる物理的制約もあり,今後更に推進する必要があるものの,困難な問題も含んでいる。
  なお,49年6月現在,全国のバス専用レーンは134区間178.7km,優先レーンは212区間370.2km,専用道路は61区間45.8kmに及んでいる。

  これらのほか,道路の整備,駐車規制の徹底,広域交通管制の推進等が図られてきてはいるが,なお交通混雑,交通公害の問題は解決せず,限られた交通空間を有効に利用し,排出ガスの総量規制,交通事故防止など,地域住民の生活環境の保全を図りつつ,必要な交通需要を満たすためには,過密地域における自動車の総走行量の抑制に関し,何らかの具体的方法を検討する必要があろう。この場合にこの措置は抑制された需要を受け入れるべき公共輸送機関の整備と表裏一体をなすものでなければならない。
  次に,公共輸送機関は,その本来の役割を発揮し,快適なサービスを提供することにより,需要を吸引し,増収を図るよう努力する必要がある。これまで鉄道に関しては,地下鉄と郊外鉄道との相互乗り入れ運転,車両,ホームの冷房化,運転時間帯の拡大,運行間隔の短縮,フレートライナー網の拡充等が,また,バスに関しては,前述の専用レーン等の設定,バスロケーションシステムの導入,都心ミニバスの運行等がそれぞれ実施されている。更に,近年福祉向上の要請の高揚に伴い,運輸においても老人,身障者,病弱者等のいわゆる交通弱者対策の必要性が高まっている。現在,各輸送機関において,点字券売機,改札口の拡大,老人等優先座席等,が実施されているが,今後これらの措置の拡充について検討する必要がある。
  今後とも,これらの改善努力を払いつつ,各輸送機関の相互協調のもとに,乗換システム,端末システムの改善を行い,その輸送網のトータルシステム化を図る等,一層の利用促進策を推進する必要がある。


表紙へ戻る 次へ進む