1 公共事業費による施設整備状況


  社会資本のなかで重要な位置を占める交通関係社会資本の蓄積状況についてみると,運輸関係施設の整備は経済社会情勢の変化に十分対応しているとは言えない状態にある。このため輸送サービス等の低下が顕在化しており,昭和48年度においても道路交通渋滞,港湾におけるバース待ち,空港の混雑等は依然として好転の兆しをみせていない 〔2−3−1図〕。一方,鉄道,道路,港湾,空港等の整備計画については需要に応じた輸送力の確保及び増強,交通公害防止,安全性の確保等の観点から施策が進められているが 〔2−3−2図〕,地価高騰による用地取得難,地域住民の環境保全要求の高まりに伴う工事の遅れ,資材の単価上昇による規模の縮小,48年秋以降の総需要抑制策に伴う公共事業費の繰り延べ等の理由により,多くの計画で立ち遅れが目立っている。

(1) 鉄道

 ア 国鉄……国鉄による輸送量は近年,旅客人数,貨物トン数ともに減少又は横ばい傾向を続けており,特に貨物は48年度で1億7,600万トン,前年度比3.3%減となっている。
  国鉄の貨物輸送量,分担率が年々低下傾向にあることについては,年を追って激化する労使紛争による輸送力の減退,それに伴う荷主の信用失墜と同時に産業構造の高度化,輸送需要の多様化に対処しうる施設整備面での遅れが指摘されよう。労働力のひっ迫化,省エネルギー輸送への転換等の観点から,これからの鉄道は陸上輸送の中核的役割を果たすことが期待されており,大量性,高速性,確実性等鉄道輸送の特性を生かすための施設の整備拡充,輸送の近代化が必要である。
  また建設資材の高騰,環境保全に関する沿線地域社会との調整問題等により全国新幹線計画,都市部の輸送力増強計画等での工事の遅れが出ており,特に東北新幹線工事では東京都内及び周辺地域の用地交渉が難航している。なお48年度における国鉄設備投資額は7,878億円で前年度に比べ40.9%増であった。
 イ 鉄建公団……日本鉄道建設公団は48年度に1,844億円(決算ベース)の投資を行い,武蔵野東・西線ほか6線区が開業するに至つた。しかしながら,成田新幹線については沿線住民からの反対により大部分は着工が困難な状態にある。
 ウ 地下鉄……48年度中に開業した地下鉄線は2区間9.0kmのみで,用地取得困難,建設工事単価の急騰等から低調であった。地下鉄の建設費の推移を1km当たりの工事総費用でみると 〔2−3−3図〕のとおりで年々増加する用地費,土木関係費等,諸経費の高騰が工事の進行阻害要因となっている。

(2) 港湾

  急増する港湾取扱貨物量に対応すべく,港湾整備5か年計画に基づいて港湾諸施設の整備が進められているが,水域施設,外郭施設,係留施設等の整備は港湾取扱貨物量の増加に追いつかず,依然として施設不足の状態にある。とりわけ東京湾,伊勢湾,大阪湾など大量貨物の集中する港湾においては取扱貨物量の限界に達しており,48年における主要五大港の滞船状況をみると,着岸船舶隻数の5.7%に当たる3,808隻が平均48時間バース待ちしている。
  また,近年とみに脚光をあびている大型中・長距離フェリーにおいても,その拡大テンポが急速であったため,これに適合するフェリーふ頭の整備が立ち遅れており,需要の動向との間にギャップが生じている。四方を海に囲まれた我が国においては,今後とも海上貨物量,旅客量は増大することが予想されることから,フェリーふ頭を含む国内流通港湾,コンテナ輸送の進展に対応した外国貿易港湾の整備はもとより,近年のプレジャーボートの普及に伴うレクリエーション港湾の整備など総合的計画的整備を進める必要がある。

(3) 空港

  我が国の民間航空輸送量は旅客・貨物とも年々急激な増加を示してきた。特に47年度にはB-747,48年度にはL-1011等の広胴機の導入が始まり,本格的大量高速輸送時代の幕をあけることとなった。しかしながら,滑走路,空港ターミナル,保安施設,管制施設等の地上諸施設は大量輸送に対応した施設整備が十分に行われているとはいい難い。とりわけ東京,大阪両国際空港における過密状態は,環境保全の要請による便数制限措置と相まって,航空輸送を制約する要因となっている。このため新東京国際空港の開港及び関西新国際空港の工事着工を急ぐ必要があるが,ともに騒音等の環境問題,地域社会との調整の難航等によりその実現が大幅に遅れている。また地方空港の滑走路延長,新設工事についても高知,花巻のように同様の理由で事業が遅延している空港がある。

(4) 道路

  道路施設の整備は,自動車保有台数の増大に対比して立ち遅れを示しており,特に大都市及び周辺地域においては排出ガス,騒音など環境保全に係る沿線地域住民の建設反対運動,地価高騰による用地取得難,資材の単価上昇による工事の遅れ等により道路網の整備は困難を増しており,路面交通に深刻な影響を与えている。
  以上,諸機関における施設整備の立ち遅れの状況をみると,その原因を,大気汚染・騒音等環境問題の重大化,地価の高騰・土地利用の高密度化による交通空間の確保難,物価急騰に伴う建設単価上昇等に求めることができる。したがって,交通施設の整備に当たっては公害防止に十分配慮すること,鉄道・道路の立体的併用等による交通空間の有効利用を図ること,設備投資財源の確保に十分な措置を講ずること等により,施設整備の推進を図る必要がある。


表紙へ戻る 次へ進む