1 経営悪化の個別原因


  現行の財政再建計画は,48年度後半の石油危機に端を発した諸物価の高騰,48,49両年度の予想を上まわる大幅なベースアップ,1年半にわたる運賃改定の遅れ等の諸理由により, 〔2−6−3表〕のとおり,既に実績との間に著しいかい離をみせており抜本的な新計画策定の必要性が生じている。
  この場合,国鉄の経営悪化の原因として地方交通線,貨物輸送,運賃問題,利子負担等の構造的とも言える要因が相互に密接な関係を有しながら存在していることに留意する必要がある。

(1) 地方交通線

  過疎化の進行及びモータリゼーションの進展による自家用輸送手段の急速な普及により,いわゆる地方交通線(約1万1,000キロメートル)から発生する赤字は逐年増大する傾向にある。地方交通線の輸送量は,49年度においては,国鉄輸送量のうち旅客は約8%,貨物は約5%であり,営業収入では客貸あわせてわずか6%しか占めていないにもかかわらず,その赤字額は国鉄全体の39%にもなっている。また,39年度以降49年度までの間の地方交通線の赤字累積額は,同じ期間における国鉄全体の赤字累積額の約62%にも達しており,地方交通線の赤字は国鉄経営の大きな圧迫要因となっている。地方交通線のなかには大量輸送機関としての鉄道の特性を発揮できず,国民経済的観点からは自動車輸送への転換が望ましいと思われる線区も少くない。このため,現行の財政再建計画においても,すでに前節で述べたように地方閑散線の道路輸送への転換を行うこととされており,46年度からは廃止について合理化促進特別交付金を交付しているが,地方交通線の廃止については,地元の同意を得ることが極めて困難な状況にあるため,その実績はあがっておらず,44年度以降の路線の廃止は,民鉄が834キロメートルであるのに対し,国鉄は217キロメートルにとどまり,廃止促進の当否及び存続する場合の費用負担のあむ方が問題となっている。

(2) 貨物輸送

  鉄道は,貨物輸送の分野で,大量定型・長距離輸送にその特性を発揮してきたが, 〔2−6−4図〕のとおり,エネルギー革命及び産業構造の変革により従来鉄道貨物の大宗をなしてきた石炭・木材等の1次産品の輸送量が減少したこと等のため次第に鉄道輸送の特性が失われてきた。これに加え,産業構造の変革及び経済の発展は付加価値率の高い2次製品の生産を増大させたが,これらの運賃負担力の高い製品は,モータリゼーションの進展による自動車輸送の発達により良質のサービスを求めてその多くが自動車輸送によることとなった。このため鉄道貨物の輸送量は,全体として,45年度をピークに減少しており,また全輸送機関に占めるシェアも一貫して減少してきている。

  このような物流構造の変化及び輸送需要の質の変化に対して,国鉄は,フレートライナー網の整備,物資別適合輸送の拡大等の諸施策を遂行し,合理化,省力化に努めてきたが,限られた投資財源のなかでは増大する旅客輸送需要に対応するための旅客優先の輸送改善を進めざるを得なかったため,貨物関係投資が十分なされてきたとは言い難く,必ずしも変化に対応する十分な体制の整備がなされなかった。また,ストライキ等の影響による荷主の国鉄貨物輸送に対する信頼感の喪失も,国鉄貨物輸送量の減少に一層拍車をかけていると言えよう。
  このように国鉄貨物輸送はその競争力が弱くなってきているため,大幅な運賃改定によって増収を図ることは,かえって貨物を逸走させることから困難であり,他方合理化による経費増の抑制も貨物輸送の特殊性,合理化投資が十分でないこと等によって大きな効果をあげていない。
  この結果,国鉄貨物の赤字は増大の一途をたどり,その赤字額は全体の累積赤字額の相当な部分を占めている。以上のような状況にかんがみ,今後の国鉄の貨物輸送のあり方については,我が国の物流体系における役割,財政再建問題との関連におけるあり方等との関連において検討を行う必要がある。

(3) 運賃問題

  国鉄の運賃水準は, 〔2−6−5図〕のとおり他の諸物価に比べ相対的に低くなっている。特に最近は,物価対策の見地から公共料金抑制策がとられ,国鉄運賃については特に厳しく抑えられてきた。石油危機に端を発した異常な物価高騰のなかで,現行の再建計画における運賃改定は,当初の予定より1年半遅れ,49年10月に実施されたが,その間の収入減は国鉄の赤字を一層拡大させることとなった。51年度の国鉄の経営はさらに悪化することが見込まれるが,その健全な経営を図り公共企業体としての使命を遂行するためには,経営合理化の一層の徹底に合わせて,所要の財政助成とともに適正な利用者の負担が求められることとなろう。
  なお,このように国鉄運賃が低水準にあることは運輸業全般の運賃体系を乱すこととなり,他の運輸事業の経営を圧迫する要因ともなっている。

  また,現在の国鉄運賃の決定についてはこれまで各種の審議会等において経済情勢の変化等に適時適切に対応することが可能となるよう措置すべき旨の提案がなされており,これについて今後十分な検討を行う必要がある。ちなみに,主要諸国での運賃は(2-6-6表〕のとおり監督官庁の認可等あるいは鉄道の自主決定に任せられており,法定されているものはない。

(4) 利子負担

  国鉄は従来から鉄道輸送の円滑な維持発展を図るため必要な投資を行ってきたが,これらの投資のなかには安全輸送の確保,通勤通学輸送の混雑緩和のための投資等直接収益とは結びつかないものがあわ,またその他の投資も先行的性格を有し懐妊期間の長いものが多い。これらの投資資金の調達については,国鉄財政の現況からほとんど借入金に依存せざるをえない状況にあるが,これに加えて収入不足に伴う運転資金等も借入金で賄わざるをえない現状にあり,これらの借り入れに伴う利子負担の増加も,国鉄財政をさらに悪化させることとなっている。


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