3 海運企業の経営構造の変化


 (1) 我が国海運企業の営業収益は逐年増大しており,49年度の利子補給対象会社(41社)についてみると2兆643億円で44年度の7,054億円に対し2.9倍となっている。この間総資本は1兆660億円から2兆1,573億円へ2倍に増加し,この結果総資本回転率(営業収益対総資本比率)は44年度の0.7から1.0に上昇しており,資本利用の効率化が図られている。
  このような営業収益の急速な増大と資本利用の効率化が行われたのは,社船の大型化等によることもその一因であるが,外国用船の活用がその主たる要因であると考えられる。
  運賃収入の中で外国用船が占める比率は急速に増加しており,中核6社についてみると,45年3月期には運賃収入(定期船部門を除く)1,044億円のうち301億円,29%が外国用船によるものであったのに対し,49年3月期では同2,902億円のうち1,492億円,51%が外国用船によるものである。さらに,これらの外国用船は,市況の上昇に応じ適切に市況船として運用することにより,一層の収益の増加に寄与することとなった。
  こうした市況船の活用が可能となった背景には,計画造船を中心とする定期船あるいは長期契約船の持つ安定した収益力に加えて,企業の財務状況のある程度の改善による企業体力の増大が要因として働いていたものと考えられる。

 (2) 我が国海運企業の自己資本比率は依然として低いものの,近年,経理処理上固定負債に計上されてはいるが利益性の引当金である船舶の特別償却準備金残高が急増しており,中核6社についてみると,45年3月末における特別償却準備金残高が378億円であったのに対し,48年3月末には1,185億円に達し,さらに,50年3月末までにはそれまでの高収益により大幅に積み増しされ,資本金の合計の1.6倍に相当する2,055億円となっている。
  特別償却準備金は積立時以後毎年その1/10を利益に繰り戻すことが法定され,企業の安定した内部留保としては一時的経過的であるが,毎年安定した額の残高を繰り越すことができる範囲では長期に固定した投資に張り向けることができる。
  また特別償却準備金は,好況期には大幅に積み増しされ,企業収益が悪化した場合にはその取崩し額が収益の下支えとなることかち,市況の上下に大きく左右される海運企業の収益を平準化する働きをもっている。
  企業財務上こうした機能を持つ特別償却準備金は,それゆえ大量の日本船の建造を促進し,我が国商船隊の強化に寄与してきたが,同時に最近の好市況時の収益を内部留保させ,企業体力を実質的に充実させることに貢献したといえる。
 (3) 海運業は資本集約型の産業であり,設備資金の需要は相当額に達しているが,この設備資金の調達については従来から長期借入金への依存度が高く,中核6社についてみると,50年3月末では長期借入金が負債及び資本の42%を占め,海運企業の資金調達の主要な源泉となっている。
  一方,自己資本及び利益性引当金という内部資金源と長期借入金,負債性引当金等のいわば外部的な資金源との関係について顕著な動向がみられる。中核6社についてみた場合,負債及び資本は50年3月期には44年3月期に比べ111%の伸びを示し,金額では,8,233億円増加しているが,そのうち内部資金源としての自己資本及び利益性引当金は,163%の伸びと全体を大きく上回って増加し,その増加額は2,349億円と全体の増加の28.5%を占めるに至っている。その中では特別償却準備金を中心とした利益性引当金の増加が1,840億円と大きく,この結果,長期資金の源泉である固定負債及び資本の中に占める利益性引当金の割合は45年3月期に6.7%であったものが50年3月期には19.8%と大きく増加したのが注目される。
  他方,外部資金の調達については社債発行残高が45年3月期の12億円から50年3月期には490億円へと急増しているのが注目される。こうした傾向は最近における外債の発行,インパクトローンの導入等海外からの資金調達が推進されてきていることと併せ外部資金の調達方法の多様化の現われとみることができる。


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