1 都市交通と公共輸送


  三大都市圏(首都圏,近畿圏及び中京圏)における旅客輸送人員の輸送機関別分担率の推移をみると,最近5年間では自家用乗用車及び地下鉄がシェアを拡大し,国鉄及び民鉄が横ばいで,バス・タクシー等が減少している 〔2−3−19図〕。なお,自家用乗用車は,昭和49年度は石油ショックの影響でいったん減少したが,50年度はまた増加に転じている。これを都市圏の中心部(東京都区部,大阪市及び名古屋市)と比較してみると,中心部では国鉄,民鉄及び地下鉄という高速鉄道の分担率が高くなり,自家用乗用車及びバスの分担率は低くなっている。また,中心部では自家用乗用車の伸びが頭打ち傾向を示しており,特に東京都区部では既に45年度をピークとして減少に転じている。一方,大都市圏においては都心部における地価の高騰及び生活環境の悪化に伴い,住宅の郊外立地が進み,いわゆるドーナツ化現象が進行しており,都心部と郊外を結ぶ通勤を主体とした輸送需要の増大を効率的に捌くため,高速大量輸送を行なう都市高速鉄道の整備が進められ,大都市交通は高速鉄道への依存度を高めている。三大都市圏における都市高速鉄道の整備状況は 〔2−3−20表〕のとおりである。

  次に,大都市における道路交通の混雑は,バス・タクシー等の公共輸送機関の運行効率にも大きな影響を与えている。従来は,都市の交通量の増大に対して,道路を整備し,道路容量をふやすことによって対応しようとしてきたが,結局,大都市における道路整備はスペースの確保が困難となつきており,また,生活環境保全の見地からの抑制も強まっている。そこで40年代後半になると,都市交通を極力輸送効率の高い公共輸送機関に誘導することにより,輸送の合理化を促し,効率的で環境条件への影響の少ない交通体系を形成するための努力が続けられてきている。すなわち,都心業務地区の道路交通需要を吸収するために都心部にち密な地下鉄ネットワークの形成が進められるとともに,市民の足として日常生活においてきめ細かなサービスを提供するバス・タクシー輸送を改善するための施策が実施されてきた。
  大都市において公共輸送機関を中心とした交通体系を確立するため,バス・タクシーサービスの改善について種々の指針を示したものとしては,46年の運輸政策審議会の「大都市交通におけるバス・タクシーのあり方及びこれを達成するための方策」についての答申がある。この答申にもられたバスの輸送力の改善,バスの信頼性の回復,バスの乗り継ぎ機能の強化及びタクシー輸送の改善についての具体的提言に基づいて現在まで実施に移されてきた主な施策としては,バス路線網の再編成,終車の延長及び深夜バスの運行 〔2−3−21図〕,新住宅地バス路線の開設,駅前広場の再開発等によるバス・鉄道の乗り継ぎ機能の強化,バス専用・優先レーン等の設定 〔2−3−22図〕,低床・広ドア等の都市用バスの開発及び運行,停留所標識等の整備,バスロケイションシステムの開発,バス優先信号の導入等があげられる。この中で最近注目を集めているのは,バスという乗合用車両を用いつつ,運行システムの改革により,輸送サービスのレベルを自家用乗用車に近づけようとする試みであり,東京及び大阪を中心に推進されている。50年度においても,コールモビルと呼ばれる一種のデマンドバスシステム及び一部区間をデマンドバス方式とフリー降車方式を組み合せた中型バスシステムが各々運行を開始している。

  また,タクシーについても,東京と大阪にタクシー近代化センターを設置し,タクシー運転者の登録及びタクシー業務適正化事業を実施させるとともに,乗合タクシーの拡充を図る等サービスの改善を図っている。


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