2 港湾,空港及び海岸各新五箇年計画の発足
昭和50年代前期経済計画に沿って,51年度を初年度とする港湾及び空港の整備に関する新五箇年計画が発足し,また,海岸事業についても新五箇年計画が閣議了解されたが,各前五箇年計画に比べ,安全対策及び環境対策のための事業費のシェアが大幅に増大しているのが共通の特色である。以下,各五箇年計画の概要について述べるが,具体的内容については各論にゆずることとする。
(1) 第5次港湾整備五箇年計画
46年度に策定された第4次港湾整備五箇年計画(前計画)は50年度をもって終了したがその投資規模は2兆1,000億円で,このうち港湾整備事業費は1兆5,500億円とされていた 〔2−6−4表〕。
前計画は,外国貿易港湾及び国内流通港湾の整備と地域開発基盤港湾の整備等に重点を置いたもので,安全対策及び環境対策のための投資は,それぞれ,港湾整備事業費の6.5%、1.1.1%であって,このうち環境対策は,海水油濁防止施設整備事業と有害物等を含む海底汚泥の俊傑等を行う港湾公害防止対策事業のみであった。
港湾整備事業の実施状況を計画額に対する実施額の比率でみると,48,49両年度の公共投資の抑制策等により83.2%であった。なお,地方単独事業,港湾機能施設整備事業等を含めた全投資規模2兆1,000億円に対する達成率は79.5%と更に低くなっている。
港湾整備事業のうち外国貿易港湾及び国内流通港湾の整備については,達成率はそれぞれ89.1%,98.4%であったが,地域開発基盤港湾の整備については,苫小牧港東部地区の開発の遅れ等もあり,77.3%であった。これに対し,環境対策事業については,計画策定時以降において,新たな事業として緑地整備等を内容とする港湾環境整備事業及び浮遊油の回収等を内容とする海洋環境整備事業が発足したこと等のため,各年度の港湾整備事業費に占める割合も46年度の0.4%から50年度には11.3%にまで増大し 〔2−6−5図〕,五箇年計画におけるその達成率は464.7%に達した。
第5次港湾整備五箇年計画(新計画)は51年10月に閣議決定されたが,その投資規模を3兆1,000億円(前計画比1.5倍)とし,そのうち港湾整備事業の規模は2兆2,800億円で,環境対策事業については引続き積極的に推進することとしている。
新計画においては,55年における全国港湾取扱貨物量を37億トン(49年実績比38%増)と見込み,貨物輸送の近代化,地域振興のための基盤施設の整備,船舶の航行の安全の確保,港湾及び海洋の環境の改善等の諸要請に応えるため,港湾の整備を引続き強力かつ計画的に実施することとしている。まず,外国貿易港湾及び国内流通拠点港湾についてはそれぞれ港湾整備事業費の27.2%(金額では前計画比0.9倍),11.0%(同0.9倍)を投資することとしている。一方,地方・離島港湾及び地域開発港湾については25.2%(同2.0倍),狭水道航路の整備等の安全対策については11.4%〈同2.6倍),環境整備及び公害防止対策等については13.8%(同18.5倍)をそれぞれ投資することとしており,環境整備及び公害防止対策等の伸び率が大きい 〔2−6−6図〕。
各事業項目について,その整備の方面をみると,まず外国貿易港湾については,輸出入貨物の流通の合理化及び安定供給を図るため,コンテナ埠頭,物資別専門埠頭等の施設を整備し(6,200億円),また国内流通拠点港湾については,エネルギーや空間等の有限性が強まってくることから,海運を積極的に活用した国内輸送体系の形成及び海陸一貫輸送の発展に資するためその拠点となる港湾を配置し,物資別専門埠頭及び近代的なカーフェリー埠頭を整備することとしている(2,500億円)。地方・離島の港湾については,地域住民の生活の安定に資するため,定期船の寄航,地場産業の育成等のための所要の港湾施設を整備する(3,850億円)。地域開発港湾の整備は,地方都市の育成を図るため,地域の産業振興の基盤となる港湾を整備するものであるが,特に苫小牧東部には新たに大規模な工業港湾を開発し,地域開発の拠点づくりを行うとしている(1,900億円)。安全対策については,防波堤,航路,泊地等の施設の整備を行うほか,東京湾口等船舶の輻輳する狭水道航路の整備及び小型船舶の避難港等を整備する(2,600億円)。環境整備及び公害防止対策については,快適な港湾,海洋環境の創出をめざし,緑地,広場等港湾環境整備施設,廃棄物処理施設等の整備,堆積汚泥の除去,廃油処理体制の強化,浮遊ゴミの回収等の事業を行うとしている(3,150億円)。
(2) 第3次空港整備五箇年計画
46年度に策定された第2次空港整備五箇年計画(前計画)は50年度をもって終了したが,その投資規模は5,600億円で,このうち予備費を除く事業費(以下単に事業費という。)は5,250億円とされていた。
同計画は,全国を一日行動圏にする構想にのっとって空港の整備を進めようとしたもので,新国際空港及び一般空港の整備に重点を置き,騒音対策及び航空保安施設整備にはそれぞれ事業費の7.8%,13.3%の資金を配分していた。空港整備事業の実施状況を計画額に対する実施額の比率でみると,航空機騒音問題の深刻化を反映して,騒音対策事業には計画を大幅に上回って資金が投入され,計画額に対し234.6%の実施額となった。すなわち,46年度に56億円であった騒音対策事業費は,その後逐年増加の一途をたどり,50年度には390億円と7倍に伸び,事業費に占める割合も6.1%から41.5%へと大幅に増加した。また航空保安施設整備事業は計画額を下回ったものの94.4%と高く,一方空港施設の整備は新国際空港の整備が遅れたこともあって,70%足らずの資金が投入されたにすぎない。この結果,全体では78.7%の実施にとどまった。
第3次空港整備五箇年計画(新計画)は,51年10月に閣議決定されたが,新計画においても,前計画の騒音対策事業に相当する空港周辺環境対策事業費は大幅に増加している。
新計画の投資規模は9,200億円(前計画比1.6倍)で,今後の国際交流の活発化に対応するため,また我が国経済社会の地域間格差の是正,均衡ある国土利用の促進等を図るため,国際空港及び国内空港の整備を強力に推進していく必要があるとしているが,一方,53年が航空機騒音に係る環境基準の中間改善目標年次であることから,特に既存空港周辺の環境対策事業を積極的に推進し,航空輸送の健全な発達のための基盤整備を行うこととした。このような観点から,その投資配分においては前計画に比べ,空港周辺環境対策事業費は7.8%から35.1%(金額では前計画比7.4倍)へと大幅に増加し,また航空輸送の基本的課題である安全対策としての航空保安施設整備事業費も13.3%から15.5%(同1.9倍)へと増加している一方,空港整備への投資配分は,一般空港についてはほぼ横ばいとなるものの,新国際空港については50.7%から25.9%(同0.8倍)へと大幅に低下している。
各事業項目についてみると,まず,空港周辺環境対策事業においては,住宅の騒音防止工事の助成,建物の移転補償等の推進を図ることとしている(3,050億円)。航空保安施設及び管制施設については,VOR/DME(超短波全方向式無線標識施設と距離測定用施設を組み合わせた施設)等の整備,航空路監視レーダー網の拡充,管制情報処理システムの整備等を図ることとしている(1,350億円)。また空港整備については,新東京国際空港の早期開港を図るとともに,C及びB滑走路の整備を進め,関西国際空港については,所要の調査・検討を行い,早急に位置等の計画を決定しその建設を促進することとしている(2,250億円)ほか,一般空港については,就航機材のジェット化,大型化等に対処して滑走路の延長等の工事を行うこととしている(1,750億円) 〔2−6−7図〕。ちなみに,国内空港のジェット化は最低2,000メートル級の滑走路を必要とするため,空港の大幅な拡張ないし新設を必要とするが,航空審議会の今回の答申(「今後の空港・航空保安施設整備に関する方策について-第3次空港整備五箇年計画について」)においては,「投資額にも制約があるので,個々の空港について投資の費用効果を十分分析して優先順位の高い空港から重点的に整備を進めるべきであるとくに最近では空港整備に対する住民の反対運動等によって,整備計画が決定しても空港整備が円滑に進展しないため,結果的には極めて効率の悪い投資となる恐れがあるので,地元の受入体制が十分に整っている空港から優先的に整備を進めるべきである。」としている。
(3) 第2次海岸事業五箇年計画
海岸事業については,従来から諸経済計画において国土保全部門の一環として位置づけられ,実施されてきているが,その計画的な整備を図るため,45年度に第1次海岸事業五箇年計画(投資規模は他省所管分を含み3,700億円。以下前計画という。)が策定された。計画期間中の運輸省所管分の海岸事業の実施状況をみると,計画額1、294億円に対し83.6%の実施額であった。
前計画は,高潮対策,侵食対策等を柱としていたものであるが,48年度に本事業の一環として,海水浴場の整備等を内容とする海岸環境整備事業が発足し,同整備事業の事業費は年々増加している。
第2次海岸事業五箇年計画(新計画)は,51年2月に閣議了解されたが,投資規模は他省所管分を含み5,800億円(前計画比1.6倍)で,このうち運輸省所管の海岸事業費は1,928億円である。これにより,防護を要する海岸(運輸省所管分)約4,200キロメートルについて,その整備率(総必要投資額に対して既投資額の占める割合)を,現在の約30%から,おおよそ40%に引き上げることを目標とするほか,前計画期間中に発足した海岸環境整備事業を強力かつ計画的に推進していくこととしている。
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