第2節 設備投資の現状
50年4〜6月期において景気回復過程に入った我が国経済は夏場以降年末までの間再び停滞気味に推移した。
このため需要の伸びは弱く,かつ企業収益が著しく低水準であり,また,低操業の結果生じた企業の設備過剰感が高まっていたため企業の投資マインドは慎重で,49年1〜3月期から減少を始めていた民間設備投資は50年中も減少を続けた。
51年1〜3月期に景気が本格的な力強い回復基調を示し始めるに及んで,民間設備投資も9四半期ぶりにようやく小幅ながら増加を示し,下げどまりをみせたが,年度をとおしてみると,50年度は前年度比9.1%減(実質9.3%減)と大幅な減少となった。
50年度の運輸部門における設備投資実績は,公共事業費が前年度比1.8%増,運輸省所管民間企業(17業種。原則として,資本金5,000万円以上のもの。以下民間運輸企業という。)同16.2%減で,公共事業費のそれは前年度をわずかに上回ったものの,民間運輸企業のそれは2年連続のマイナスとなった。またこれを資材単価の上昇等諸経費の高騰を考慮した実質でみると,公共事業費はほぼ横ばいであったが,民間運輸企業の設備投資は減少幅は縮めたが,3年連続減少していることになる 〔2−6−8図〕。
全民間設備投資,運輸関係公共事業費及び民間運輸企業の設備投資の実質値による前年度比の伸び率をみると 〔2−6−9図〕のとおりとなっている。
全民間設備投資は景気の動向と軌を一にした動きを示して49年度にマイナスに転じ,50年度においても前述の如く依然として回復をみせず,この結果,その水準は45年度のそれを若干下回るものとなっている。
一方,運輸関係公共事業費は,従来は不況期には大幅な増加を示しており,民間設備投資と逆の動きを示してきたが,48年度には総需要抑制策の影響により景気後退に先がけて減少し,49年度においても増加をみせなかった。しかし,50年度は,政府の数次にわたる景気対策により,各種の公共工事が実施されたため,微増となったもののその水準は46年度のそれにとどまっている。
次に民間運輸企業の設備投資をみると,全民間設備投資に先がけて運輸関係公共事業費の落ち込みと軌を一にして,48年度から減少を始め,48,49年度と大幅な落ち込みをみせたが,50年度においても引き続き減少している。50年度のそれを部門別にみると,運送業部門では貨物輸送需要の減少と旅客輸送の伸び悩み,経営悪化等から設備投資意欲が減退したため,バス,タクシー業を除き軒並み減少となった。また製造業部門で世界的な船腹過剰を反映して造船業,造船関連工業が大幅な減となったことにより,50年度中は減少を続けた。しかし,民間運輸企業設備投資の対前年度伸び率の動きにおいては,従来と同様公共事業費のそれと軌を一にした動きを示したため 〔2−6−9図〕,50年度の減少幅は前年度のそれよりも小さくなってい。しかし,民間運輸企業の設備投資は前述のように3年連続の減少となり,今回の不況による落ち込み幅は,公共事業費はもちろん全民間設備投資のそれを大幅に上回り,ほぼ43年度の水準にまで後退している。このような運輸企業の設備投資の減少は,50年度の運輸企業の経営収支が,第4章で述べたように運賃改定の影響もあり,若干改善を示したものの,資材・工事費の高騰,空間・環境の制約などの増大に加えて,運輸企業の企業体力が十分に回復せず,投資余力が乏しくなったことを示すものと考えられる。
しかしながら,運輸企業においては,前節で述べたように今後とも施設整備を推進する必要に迫られており,このためには,運賃の適時適切な改定,長期低利の資金融資,その他財政措置等により,運輸企業の企業体力の強化と経営基盤の確立を図っていくことが必要であるといえよう。
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