1 発展途上国のナショナリズムと東欧圏諸国海運の進出
(1) 発展途上国のナショナリズム
1960年代以降の発展途上国のナショナリズムの高揚は,政治,経済全般にわたって,いわゆる南北問題を惹起した。海運問題はなかでも最優先課題としてとりあげられている。
海運分野における発展途上国の要求には,@国際収支の改善をねらいとした自国商船隊の拡充,及びA自国産品の輸出競争力の確保上要求される運賃問題等,切実かつ緊急な問題が含まれている。@の問題は海運参加の立場から要求される問題であり,これらの中には,先進国に対する自国商船隊の整備のための経済,技術援助の要請,海運同盟に対する自国ナショナル・ラインの加入と一定シェア取得の要求,自国関係貨物の一定部分を自国商船に留保する政策(いわゆる貨物留保政策)の採用等がある。一方,Aの問題は産品輸出者としての立場から要求される問題であり,これらの中には,海運同盟に対する自国産品に関する輸出促進運賃の設定又は運賃引下げの要求,海運同盟と荷主との間の協議の充実及び当該協議への政府参加の要請等がある。
これらの発展途上諸国の要求は,一方的な国内法の制定(国旗差別)又は既存の国際海運制度への非難,否定への高まりとなって,全面的な海運制度の洗い直しの要求へと進展しつつある。
その典型的な例としては,1974年UNCTAD主催による国連全権会議において採択された定期船同盟行動憲章条約等にみられるとおりである。
我が国としては,先進海運国の一員として,「海運自由の原則」を極力維持するとの考え方にたちつつも,発展途上諸国と地理的,経済的に密接な関係を有するという我が国の立場に留意しつつ,これらに対処する必要がある。
我が国海運の利益を著しく損う一方的な国旗差別政策に対しては他の先進海運国と協調してこれに抗議する等の措置をとってきたが,今後我が国としても,より強力な対抗手段の保有について検討する必要があろう。
(2) 東欧圏諸国海運の進出
東欧圏諸国は,1970年代に入って本格的な船腹拡張を行って既存の海運市場への積極的な進出を図っており,その進出が急激であることから,既存の海運秩序の混乱をもたらすような事態を招いており,先進海運諸国にとって大きな脅威となるに至っている
即ち,これら東欧圏諸国は,その経済社会体制が他の先進海運諸国のそれと異なることから,@相手国に対し,貿易条件自体をFOB輸出,CIF輸入とするよう要求することにより自国海運会社積みを指定する。A船員費も他の先進諸国と比較して低廉であること等を利して極端な低運賃を設定する。G海外に合弁企業を設立して自国船のための集荷活動を行う(逆に先進海運諸国の企業が,東欧圏諸国に合弁企業を設立し集荷活動を行うことは認められていない。)等の手段により,自国と他国との間の航路におけるシェアの独占を狙うとともに,これらの手段,特にAの低運賃をてことして,先進国間の航路に盟外三国船社として進出してきている。
こうした方法による東欧圏諸国海運の進出は,単に先進海運諸国のシエア減少をもたらすのみでなく,日米間航路におけるソ連船社の,低い運賃による盟外活動の例にみられるように,既存の航路秩序そのものに対する脅威となっており,先進海運国共通の関心事となっている。これに対し,先進海運諸国は協同でその対策を検討しているが,米国においては三国船社による低運賃を規制するための法案を検討しており,一方,1976年7月には米ソ海運当局者間において,ソ連船社の低運賃是正に関する協定が成立した。我が国としても今後,安定的な海運秩序を乱すような形での東欧圏諸国海運の進出については,先進海運諸国と協調しつつ対応策を検討していく必要があろう。
東欧圏諸国海運の進出の問題に関連するものとして,シベリア・ランド・ブリッジ輸送(SLB)問題がある。SLB輸送は,シベリア鉄道を利用する日本-欧州間のコンテナ輸送であるが,欧州諸国ではSLB輸送の進展により日欧間の海上輸送ルートの地位が低下しつつあることの問題が指摘されている。我が国としてもSLB輸送の進展が日本ー欧州間の海上輸送ルートに与える影響については認識しつつも,SLB輸送が基本的には日本ー欧州間の貨物輸送手段を増加させるものであり,現時点においては,むしろ,SLB輸送における我が国の海運企業の参加を確保することが重要であるとの考え方のもとに,日本-ナホトカ間の航路における邦船の就航について政府・民間の協議を通じて努力してきた。この結果ようやく50年9月以降,邦船1隻が同航路に就航することとなった。
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