1 損益及び財務状況我が国外航海運企業の経営環境は,タンカー部門を中心とする海運市況の低迷と燃料費・船員費を中心とする諸経費の上昇とにより,前年度までと比べ極めて厳しいものとなっている。このため昭和50年度の経営状況をみると,大部分の企業が大幅な減益決算を余儀なくされることとなり,財務内容にも収支悪化の影響が表われるに至っている。
50年度の外航海運企業の経営状況は,助成対象会社40社(更生手続中の照国海運を除く。)についてみると, 〔II−(I)−10表〕に示すとおり,史上空前の利益をあげた49年度に比し,経常利益で1,000億円を超える減益となり,37億円の経常損失計上となった。この結果,配当を行った会社は前年度の29社から17社へと減少した(他に減配3社)。このように収支状況が急激に悪化したのは,好市況時には高収益の原因となっていたいわゆる市況船の多くが低水準の運賃によるスポット運航をしなければならなかったり,荷物がないまま長期停船や係船を余儀なくされるようになったこと,長期契約船や定期船については,契約運賃の見直しや定期航路運賃の引上げにもかかわらず燃料費を中心とする運航費,船員費を中心とする船費のアップを十分吸収しきれなかったこと等の原因によるものと考えられる。
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部門別の収支状況を中核6社について船舶収支でみると,各部門とも前年度に比し減益となり,在来定期船部門を除きいずれも赤字を計上した。このうち,在来定期船部門は,産油国を中心とした中近東・アフリカ向けの荷動きが好調だったことにより,前年度に比し28.6%の減益ではあったものの,130億円の黒字を計上した。これに対し,コンテナ船部門は,年度前半の荷動きの低迷,とりわけ復航の不調等の理由から赤字に転換し,62億円の損失を計上した。しかし,51年に入り荷動きの回復が著しく,収益力が回復しつつある。また,不定期・専用船部門及びタンカー部門は,それぞれ海運市況低迷の影響を受けて370億円,238億円と大幅な損失計上となっており,鉱油船部門も110億円の損失を計上した。もっとも不定期・専用船部門は船腹過剰傾向もタンカーほど著しくなく,鉄鋼業の増産等に伴い市況の回復も期待され,また,好調な自動車専用船等の寄与も考えられるので,今後は徐々に持ち直していくものと予想される。
50年度末の外航海運企業の財務内容を助成対象会社40社についてみると,総資産は2兆1,585億円であり,49年度末に比し486億円,2.3%増加した。一方,資本構成についてみると,他人資本(負債)が1兆9,309億円,自己資本が2,276億円であり,それぞれ前年度末に比較して338億円,148億円増加している。
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このように海運企業の自己資本の水準は高くはないが,他方,海運企業には利益性の引当金である船舶の特別償却準備金が高水準で内部留保されており,50年度末における中核6社の特別償却準備金の積立残高は資本金合計の1.4倍の1,838億円に達し,重要な内部留保源になるとともに,現在のような不況期における収益平準化の機能を果たしている。
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