2 当面の不況対策


  我が国外航海運企業の経営については,すでに定期船部門において,景気の回復に伴う荷動きの活発化により業績の回復がみられ,また,不定期船部門においても,今後経済の動向に対応して市況の回復が期待されるが,タンカー部門については,需給面のアンバランスが大きく,当面好転は期待できない。また,近海船部門においても,我が国の木材輸入需要の停滞と日本船の国際競争力低下により経営の維持が問題となっている。
  このような各部門の実情をふまえ,我が国海運企業としては,その経営全般について思い切った検討を加え,適切な対策を実施し,日本海運全体としての総合的な企業力を向上させていくべき時期にきているといえよう。この場合,当面現在の集約体制を堅持し,集約グループごとの総合的体力を維持し,その体力をさらに我が国海運企業の力として不況期を乗り切るべきであり,政策面でもこれを支える配慮が必要であろう。

(1) タンカー部門の不況対策

  タンカー部門においては,世界的なタンカー船腹の過剰が顕在化しており,これに対処するためには,船腹供給量の削減が必要であると考えられる。このための対策としては,既存船のスクラップ,係船,石油備蓄への転用,減速運航,SBT(専用バラストタンク)の取付け,PAP(満載喫水線の変更により船腹量の調整を行う。)の採用,新造船契約のキャンセル等が現在各方面において検討されており,このうち,係船,減速運航及び新造船契約のキャンセルについては,既に世界各国においてかなりの規模で実施されている。ただし,係船や減速運航は,現在までのところ市況低迷の結果としてやむを得ず行われているものであり,市況回復のきざしがみられれば係船中や減速運航中の船舶が直ちに再び輸送力の増となってあらわれるという意味で,構造的な船腹過剰対策ではないといえよう。
  また,既存船のスクラップについては,老朽船について通常のペースをやや上回る程度で行われているにすぎず,更に,石油備蓄への転用,SBTの取付け及びPAPの採用については,それぞれに解決すべき問題点があり,未だ実施されるに至っていない。
  これらの方策は,当然のことながら,一国のみの措置ではなく,国際的に足並みをそろえて実施しなければ実効は期し難いものである。このため,民間レベルでは,海運,造船,金融,石油各業界の代表で構成されている国際海事産業協議会(IMIF)等において議論が重ねられており,また,政府間レベルでも経済協力開発機構(OECD)において検討が行われているほか,IMCO(政府間海事協議機関)においても環境汚染対策としてのSBTの既存船への義務付けが並行して検討されている。

(2) 近海海運対策

  我が国の近海貿易において,その大宗を占める南洋材の輸入量は,今回の不況によむ住宅建築戸数が大きく落ち込んだために大幅に減少し,この結果近海海運市場は大幅な船腹過剰となった。また南洋材輸送に従事する船舶は,中小型の一般貨物船であるが,これらの分野において日本船は著しく国際競争力を失っており,近海海運市場における日本船の横取比率は低下の一途をたどっている。
  このような状況に対処するため,運輸省においても,近海海運問題調査会を設け,問題点の究明に努めるとともに,当面の対策として近海船主に対する運転資金の融資の斡旋(181社49億2,000万円)を行ったほか,近海船の建造規制等を行っている。また、近海船主においても,中小企業等協同組合法に基づき日本近海船主協同組合を設立し,船主経済の改善と日本船の維持のためにとるべき措置を検討している。
  これらの関係者の努力に加えて,51年に入り木材輸入需要の増大により近海海運の分野においても運賃市況が回復しつつある。

(3) 企業経営の課題

  我が国海運企業は,現今の海運不況の下で一つの重大な転機に立たされているといえる。このような時に今後の海運企業経営の方向をどのようにすべきかは各企業が判断すべき重要な課題であるが,@各種経費の節減,不採算船の売却等の合理化,A低経済成長時代に即応した商船隊構成及び規模の適正化,B内部留保の一方的社外流出の防止,C資金繰り悪化に対処するための資金調達の多様化,資産の流動化などの課題について特に配慮していく必要があると思われる。


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