2 日本船の国際競争力の低下と我が国商船隊の構造変化
(1) 諸外国との国際的な競争にさらされざるを得ない外航海運においては,他国の海運に対抗していくために,国際競争力を有することが不可欠である。このため,従来から日本船については,財政融資,海運特別税制等の助成措置がとられており,更に技術革新,大型化等の合理化によりこれまでその国際競争力が維持されてきた。
しかし,近年船員費を中心とする諸経費が大幅な上昇を示し,特に船員費の上昇は発展途上国の低賃金の船員を配乗した外国船との船員費の格差を大きくし,日本船の国際競争力を著しく低下させるに至っている。このうち,コンテナ船,大型タンカー等の資本集約的な船舶については,なおある程度国際競争力が維持されているものの,コストに占める船員費のウエイトが大きい中・小型船においては,国際競争力の低下が深刻な問題となっている。
こうした事態を反映して,50年における日本船の海外売船量は160隻,205万総トンと前年の137隻,106万総トンに比べ著しく増加した。これは,不況の深刻化によるタンカーの売船の増大にもよるが,多くは競争力低下により不経済化した中・小型船の売船である。
(2) 我が国の外国用船船腹量は,〔II-(I)-12及び13表〕 〔II−(I)−12表〕 〔II−(I)−13表〕に示すとおり44年6月末には236隻,367万総トンと我が国商船隊船腹量の16.0%を占めるにすきなかったが,その後急速に増加し,50年6月末には1,152隻,2,600万総トンと43.7%を占めるに至った。
このように外国用船が増大したのは,近年の輸送需要の急激な増大に我が国海運企業の投資能力が追いつかなかったこともその一因であるが,なによりも,日本船の国際競争力が低下してきたために,発展途上国の低賃金の船員を配乗したコストの安い外国用船が日本船に代わって使われるようになったためである。
これらの外国用船の中には,単純な外国用船のほかに,いわゆる仕組船,チャーター・バック船と呼ばれるものが含まれており,近年その増加が著しく,現在では外国用船のうちかなりの部分を占めるに至っている。また,船員費の低減を目的として日本船に発展途上国船員を配乗した船舶がここ1,2年の間に急速に増大している。これは,日本の海運会社が所有する日本船を外国に裸用船に出し,これに外国の用船主が配乗権をもって発展途上国船員を配乗したものを日本の海運会社が再び用船するもので,旧本船であるものの本質的には仕組船,チャーター・バック船と同一の背景をもつものといえよう。
(3) 我が国は,工業原材料,エネルギー及び食糧のほとんどを海外から輸入し,その所得の源泉の多くを輸出に負っているので貿易物資の輸送が安定的に行われることがナショナル・セキュリティ上必要であり,そのためにはできるだけ多くの船舶を我が国の支配下におくことが望ましい。
計画造船については,今後とも一定量の日本船を確保していく必要性に鑑み,日本船建造の中心としてその果たす役割は依然として大きなものであると考えられる。現状においては, 〔II−(I)−14図〕に示すとおり,不況によりタンカーについての我が国海運企業の投資意欲は減退しており,当面その建造は減少せざるを得ないが,コンテナ船,自動車専用船,重量物専用船等の分野では,なお建造需要が見込まれ,また,鉱石専用船についても今後景気が上向くとともに建造需要が回復するものと思われるので,計画造船による船舶建造の必要性は依然として大きいものがある。
一方,日本船の国際競争力低下傾向の中で,各海運企業が経済合理性を追求していく限り,日本船に比べコストの安い外国用船の活用に頼ることはある程度やむを得ないであろうと考えられるが,この場合,ナショナル・セキュリティの観点から,単純な外国用船よりも,その運航について我が国の支配が安定的に及ぶ船舶として仕組船等の利用が望ましいといえよう。特に船舶の大型化が困難なため,安定的な船腹として日本船の維持が国際競争力の低下により困難となっている分野については,日本船に準じるものとして仕組船等による船腹の確保が必要である。
(4) これまで日本人船員は,その優秀な技術等により,我が国海運の発展に大きく貢献してきたが,我が国経済の高度成長下における日本人船員の賃金水準の上昇と有給休暇等の労働条件の改善による船員費負担の増大は,中・小型船を中心として日本船の国際競争力を低下させるに至った。このため,我が国海運企業はこれらの分野において外国用船を活用することにより船員費の低減を図り競争力の維持に努めてきたが,この間に日本人船員の予備員率は上昇し,特に50年度に入ってから,不況の影響を反映して急激な上昇を示し,51年3月末現在60%(外労協及び中小労協加盟会社の職部員合計)に達しており,企業経営を大きく圧迫するに至っている。
このような状況において,我が国海運が今後とも国際競争に耐え発展していくためには,技術革新等の合理化努力を一層推進していくほか,この際基本的に船員問題について検討することが必要であると思われる。すなわち,イギリス等の先進海運諸国では,発展途上国船員との混乗等の方法により,我が国と同様の高賃金社会の中にあって自国海運の国際競争力の維持に努めており,我が国としてもこれら諸国の例を参考にしつつ,これからの配乗制度,予備員制度のあり方等について抜本的に検討すべきであろうと考えられる。
これらの実現は,いずれも日本人船員の雇用問題と密接にかかわっており,労使間において相互信頼の上に立って十分話し合うことにより解決の方向を見出すことが必要であろう。同時に長期的な展望に立った船員雇用対策の確立が必要となろう。
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