3 新しい方向
以上見てきたように,我が国海運は,現在深刻な不況にさらされているとともに,日本船の国際競争力の低下,発展途上国海運の進出等の問題を抱えている。当面は,直面する不況からの脱出が課題であるが,同時に我が国海運が今後とも経営の安定を保ち,我が国経済に寄与していくためには,長期的視点にたって,効率的な部門の拡充,国際海運活動への進出等を積極的に推進していく必要があろう。
(1) 今後の我が国の貿易構造については,輸出入ともに運賃負担力の大きい機械類等の工業製品の増大が見込まれるので,我が国海運としては,このような貿易構造の変化に対応して,コンテナ船をはじめとする定期船部門の一層の充実を図ることが必要である。また,船舶については,コンテナ船等の輸送効率の高い資本集約的な船舶のウエイトを高めていくとともに,超合理化船の導入等の技術革新についても積極的に取り組むことが望ましい。
(2) 我が国外航海運は,戦後急速な回復と発展をとげ,現在ではリベリアに次ぎ世界第2位の商船船腹量を有する海運国となるに至り,海運企業経営や船舶運航に関するノウハウ,船員の技術力等の蓄積についても,他の先進海運諸国に比し見劣りのしない高度なものとなっている。今後の我が国海運としては,あくまでも国際的な協調体制を保持しつつ,それらの蓄積を十分活用して,発展途上国の船腹拡充計画に参画し,船員技術や船舶運航に関する指導を行うこと等により,我が国海運の総合力を発揮できる国際海運活動の分野へ積極的に進出していくことが望ましいと考えられる。
また,航路網の整備,海外の支店,代理店の質的充実等を図ることにより集貨能力の向上に努め,我が国商船隊としての国際的なシェアを高めていくことが期待される。
(3) 今後の我が国エネルギー需要は,石油への依存度が低くなるとともに,原子力,LNG(液化天然ガス)等の非石油エネルギーのウェイトが高まるものと考えられ,特にLNGについては,クリーン・エネルギーとして評価が高く,今後我が国における消費量は大きく増大するものと期待されている。これに対し,我が国海運企業によるLNG輸送については,LNG船の建造資金が巨額であるためにその資金調達に問題のあること,不稼動時のリスクが大きいこと等の理由から,我が国海運企業は必ずしも積極的ではなく未だ実現するに至っていない。
しかしながら,我が国海運としてもエネルギーの安定輸送手段を確保するという観点からはもちろん,海運企業の新規分野の開拓と安定的収入の確保という観点からも今後日本船によるLNG輸送の実現に取り組んでいくべきものと思われる。
|