1 貨物輸送需要の動向


  国内貨物輸送量の推移をみると,トン数ベース及びトンキロベースともに 〔2−1−1図〕のとおり,昭和40年度以降,45年度まではほぼ実質GNPと同じ増加傾向で推移し,両者の間には高い相関関係が認められていた(相関係数はトン数ベース0.995,トンキロベース0.998)。しかし,45年度頃からこの関係に変化が生じ始めている。

  すなわち,45年度より後は,実質GNPと輸送実績の間に今までのように高い相関関係はみられなくなり,特に,48年秋に発生した石油ショック以後の両者の関係をみると,トンベースでは48年度,トンキロベースでは49年度以降は,実質GNPの動きにかかわらず輸送量は減少ないし横ばいで推移する等両者の間には乖離が生じ,しかも,その程度が拡大する傾向がみられるようになってきた。
  このような傾向は 〔2−1−2図〕のとおり,鉱工業生産指数との間にも表われてきている。

  このような貨物輸送実績と経済指標との乖離の背景及び要因について考察すると,以下のような点が考えられる。
  まず,第1に,第三次産業の発展とそのウエイトの増大があげられる。
  主要工業製品生産量の推移をみると 〔2−1−3表〕のとおり,45年度から51年度までの年平均伸び率は,40年度から45年度までのそれと比較し軒並み大幅に減少している。また, 〔2−1−4図〕のとおり,産業別生産所得の推移をみると,40年度から45年度までの鉱工業の生産所得は年平均伸び率19.5%と着実な伸びを示したが,45年度から50年度にかけては同13.6%と伸びが鈍化し,そのウエイトも減少している。

  一方,商業・サービス部門は40年度以降,一貫して18%台の大きな伸びを示し,45年度から50年度にかけてその割合を46.4%から49.7%へと3.3ポイントも増加させている。
  45年度頃までの高度成長期には,重化学工業を中心とする鉱工業及びこれらの設備投資関係工事に従事した建設業の活況が経済全体の成長をリードしたが,45年度以降はこれら第二次産業部門より,第三次産業部門の拡大が経済成長のより多くの部分を占めるようになった。一般に,同一の付加価値額を生む生産物ないしサービスの生産に関し要する輸送需要は,第二次産業に比し第三次産業の方が少ないと思われるので,第三次産業のウエイトが増せば,経済が成長しても輸送量はそれほどは伸びないこととなる。
  第2に,第二次産業に関して,高度加工型産業への移行があげられる。
  前述のとおり,近年第二次産業の占める生産所得の増勢は鈍化する傾向にあるが,その中でも,鉄鍋セメント等基礎資材生産部門と自動車,コンピューター,精密機械等加工度の高い部門との増加率を比較すると, 〔2−1−3表〕のとおり,基礎資材生産部門の伸びは低く,45年度以後減少しているものもある。一方,自動車,精密機械,カラーテレビ,コンピューター等各種エレクトロニクス製品等の付加価値の高い製品の生産は相対的に高い伸び率で増加を続けており,我が国の産業構造は徐々に高度加工型産業にウエイトが移行している。これら高度加工型製品は,基礎資材に比し高額,低重量であるため,単位付加価値額当たりに発生させる輸送需要はこれらに比ベ小さい。したがって,高度加工型産業のウエイトが高まることは,生産高当たり輸送需要増加を少なくする要因となる。
  第3に,経済成長における輸出依存度の拡大があげられる。
  我が国工業製品の国際競争力は強く, 〔2−1−3表〕に示すとおり,45年度以降も相対的にその生産量の伸びの高い自動車,カラーテレビ等においても,その輸出比率の伸びが高く,国内販売はむしろ停滞している。また,鉄鋼,セメント等においても同様に,49年度以降国内需要が減少したこともあって,輸出比率は高くなっている。
  これにより,輸出及び海外からの所得の伸びは45年度から51年度までの間に 〔2−1−5表〕のとおり,約2倍と著しい伸びを示し,実質GNPに対する割合も逐年増加するすう勢にあり,特に石油危機の発生した48年度以降最近4か年間には,その割合が12.5%から17.3%へと著しく増加している。これは最近の経済成長の多くの部分が輸出に依存していることを示すものである。

  一般に,輸出される貨物は,そのかなりの部分が臨海部で生産され,また,その経路が港湾なり空港に向けて集中的,直線的であるため,通常最終需要者に渡るまでに二次,三次の輸送を必要とする国内消費の場合に比して短く,輸送量が少なくなると考えられる。
  51年度の輸出等の所得額は,45年度のそれに比し1.99倍と伸びている。これに対し, 〔2−1−6図〕は最終需要項目別に誘発された国内貨物輸送量の推移を表わしたものであるが,これによれば,51年度において輸出によって誘発された貨物輸送量は45年度のそれに比し1.38倍となっているに過ぎない。これにより,輸出等の所得額の伸びに対する輸出による誘発輸送量の伸びの割合は0.69となり,他の最終需要項目のそれに比し最も小さく,輸出増に依存する経済成長は国内輸送活動に対する寄与が小さいことを示している。

  第4に,公共投資及び民間投資の伸び悩みがあげられる。
  公共投資及び民間設備投資は, 〔2−1−6図〕のとおり,最終需要項目別誘発国内輸送量に占める割合が合計で44〜49%と大きく,その動向は輸送活動の消長に大きな影響を与える。特に,公共投資は民間設備投資に比して土木工事の比率が高いため,骨材,セメント等の輸送量を大きく左右し,実質GNPに占める割合が1割程度であるにもかかわらず,上記誘発輸送量に占める割合は15〜17%となっている。
  実質政府固定資本形成についてみると, 〔2−1−5表〕のとおり,47年度までは景気回復,列島改造政策等で増加しているものの,48,49の両年度は総需要抑制策もありかなりの減少をみせた。50,51の両年度については政府の景気振興策もあって,回復傾向をみせているものの,その伸び率は47年度以前のそれに比し著しく低いものとなっている。
  一方,民間投資の近年の停滞は,輸送量の伸び悩みをもたらす大きな要因の一つとなっている。すなわち,実質民間固定資本形成の推移をみると,48年度を頂点として49年度には急激な落ち込みをみせ,50,51両年度にわたる景気の緩慢な回復にもかかわらず,49年度水準で低迷している。
  今後においても,企業における設備過剰状態や,後述するとおり,国・地方の財政難,企業の投資余力の減退に加えて,環境保全との調和,地元住民との調整の必要性の高まり等の制約があり,公共投資及び民間設備投資の伸びに多くの期待はできない。したがって,当面,これらによる輸送需要の伸びに多くは見込めないと考えられる。
  第5に,企業における物流合理化策の進捗があげられる。
  産業界では,高度成長期において内外の企業間競争が激化し,企業はそれぞれ生産規模の拡大,国際競争力強化のための新設備の建設,新技術の導入など生産面での近代化,合理化を進め,生産コストの低減に努めてきた。これと並んで,すでに,30年代以降,一般に費用に占める運賃の割合の高い基礎資材産業部門においては,大都市周辺の臨海工業地帯への立地が大幅に進み,物流構造に大きな変化がもたらされた。一方,運賃の費用負担に占める割合の少ない高度加工型の産業部門においては,製品在庫の圧縮等により物流コストの低減策が進められ,輸送機関については,その特性のうち特に輸送の随時性が重視される結果となった。これらの動きが,我が国の輸送構造に大きな変化をもたらす要因の1つとなったが,40年代に入るとその他全般に物流合理化策による物流コストの低減に関心が向けられるよらになり,工場配送センター,倉庫の建設・配置等の適正化,共同輸送の推進コンテナ,パレット等によるユニット化,製品容器の軽量化,コンパクト化,包装の簡易化,コンピューターの活用等による物流情報システムの開発等多岐にわたる物流合理化対策も合わせて強力に進められてきている。
  それが今般の長期にわたる不況により,製品に対する需要の伸び悩みあるいは減退に直面し,コスト削減のための企業内における合理化あるいは効率化に対する要請も一段と厳しいものとなっている。このうちでも従来の生産部門中心の合理化は,すでに限界に達しつつあるため,こうした物流コスト低減を経営の近代化,合理化,利益率同上のための余地を残した最大の分野であるとして,一層強力に推進する必要があるという認識が強くなってきている。
  こうした傾向も,輸送需要の減少に効いてくるものと推測される。
  第6に,個人消費における“もの離れ”があげられる。
  ここ3年間にわたる不況により,個人消費における節約ムードが衣食住のほとんどの分野で定着しているが,すでに我が国1人当たり国民所得は高水準にあり,最近の節約はある程度の“ものの豊かさ”に支えられたものである。特に,耐久消費財の普及率は高水準に達しており,このため節約の中心は“もの”,なかでも耐久消費財支出に向けられ, 〔2−1−7図〕のとおり,世帯当たり主要耐久消費財の購入数量の推移をみても,50,51両年度を通じ,各品目とも過去のピークを下回っており,カラーテレビ,電気洗たく機や電気冷蔵庫は普及率の高さからいっても代替需要が中心となっている。さらに電気製品購入のために向けられる支出の個人消費支出に占める割合も,46年度以降年々減少している。こうした傾向は,消費者の新たな購買意欲を喚起する魅力ある新製品の登場を期待できないとすれば,今後も続くと思われる。

  このような個人消費における“もの離れ”も物流需要を減少させる方向に作用すると考えられる。
  このように,我が国経済が安定成長期を迎え,また,産業構造が鉱工業中心から第三次産業,あるいは第一次産業においても高度加工型産業のウェイトの高いものへと変化し,さらに,企業において物流合理化の重要性が増すこと等を考え合わせると,かつてのような大幅な輸送量の増加は見込めないと考えられる。
  今後,輸送の量の拡大に多くを望めない中で,輸送の随時性,低廉性,安全性,機動性等,輸送の質の観点からする荷主の厳しい選択に対応したければならないため,各輸送機関間,各運輸企業間における近代化,合理化競争はますます厳しさを増すものと思われる。


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