3 国際航空をめぐる諸問題


(1) 我が国国際航空の動向

  我が国出入国者数は,41〜51年の10年間に入国外客数で43万3,000人から91万5,000人へと2.1倍,また,日本人海外旅行者数で34万1,000人から285万3,000人へと8.4倍となり著しい伸びを示した。これに伴う旅客数の増大により我が国航空企業が世界の国際航空旅客輸送に占めるシェア(人キロベース)も,似年の2.8先から51年には4.7%に増大した。また貨物輸送においても,我が国航空企業の国際航空貨物輸送量は,同期間中に9,700万トンキロから8億9,000万トンキロヘ9.2倍と著しい伸びを示し,我が国航空企業が国際航空貨物輸送に占めるシェア(トンキロペース)は,41年分3.2%から51年には6.9%に増大した。
  このような状況から日本航空(株)についてみると,国際航空運送協会(IATA)加盟航空企業の貨客輸送ランキング(有償トンキロベース)において, 〔2−5−10表〕のとおり,41年には第9位であったが,51年には第4位を占めるに至っている。

  一方,我が国航空企業の51年度の経営状況をみると,日本航空く株)については,国際線の営業収入が旅客,貨物ともそれぞれ前年度比16.3%及び15.1%増となったこともあって,51年の経常利益(国内線を含む。)は61億3,100万円が計上され,3年ぶりに黒字となった。また,50年9月に開業した日本アジア航空(株)も開業2年目で6億6,100万円の経常利益を上げることとなった。

(2) 日米航空交渉をめぐる動き

  一般に国際定期航空路を開設するに際しては,2国間で航空協定を締結するのが原則となっている。これは昭和21年に米国と英国の間で2国間協定(いわゆるバミューダ協定)が締結されて以来,世界的に採用されているシステムであり,従来各国が締結している2国間協定も英米が結んだこの協定をモデルとしたものが多かった。
  しかし,米国を中心とするこのバミューダ体制は,現在の航空事情に適合しないとして,英国をはじめイタリア,日本等がその見直しを進めてきているところである。
  我が国と米国との間には,平和条約締結の翌27年に航空協定が締結された。しかし本協定は,締結当初よりその内容に不均衡があるとして,数次にわたり改訂のための交渉を行ってきたが,現在もなお,@米側の発地点であるシカゴ,シアトル等への我が国の乗入れが認められない等の日米間路線面での不均衡,A米国の以遠権が無制限であるのに対し,我が国はニューヨーク以遠欧州への権益しか与えられていないなど,以遠権における不均衡,B航空企業の自由な判断に基づく輸送力の決定,複数企業の指定などと相まって,数多くの強大な企業を有する米国が日本側の約2倍近い輸送力を提供するなど,輸送力について生じた実質的不甥御が存在している。
  このため,51年10月より新たに日米航空交渉が行われているが,この交渉において,我が国は国際航空関係をとりまく諸情勢を考慮し,日米間の不均衡を抜本的に是正することを強く主張してぎている。一方,米国は協定改訂交渉に入る前提として,従来から計画していたサイパン〜日本における路線開設及び同区間への新規航空企業の乗入れ,日米間貨物輸送における機材の大型化を申し入れてくるなど議論は平行線をたどった。
  しかし,52年7耳に行われた第4回交渉において,我が国が,協定改訂までは企業が自由に決定できることとなっている輸送力を原則として凍結することを前提として,米側の提案を受け入れることとしたため,これらの前提問題についての解決をみた。また,同時に,今後本年内に協定改訂を終了することを目途として本格的改訂交渉を行うことが合意された。
  52年10月に行われた第5回交渉においては,日本側が要求事項を具体的に提示して現行協定の改訂を迫ったのに対し,米国側は日米間路線権及び以遠権については,両国の航空関係を拡大的な方向でより均衡のとれたものとする用意があるとしつつも,チャーター便を自由化するとりきめの締結,革新的な低運賃の導入等を協定改訂と一括して処理しない限り協定改訂に応じられないとの強い態度を示した。両国の立場に著しい相違があり,解決は11月末に予定されている次回交渉に持ちこされた。
  一方,バミューダ協定締結の当事国である英米間においても,英国が航空権益不均衡を理由に51年6月英米航空協定の廃棄を通告し,以後1年間にわたり交渉が行われ,協定失効寸前に妥結し新協定が成立した。このように米国をめぐる世界の航空関係は変革を迫られているといえよう。

(3) 国際機関をめぐる動き

  国際民間航空機関(ICAO)は,国際民間航空の健全な発達を図るために,昭和19年に設立された国連の専門機関である。ICAOの従来の活動は,航空の技術的問題,法律的問題に関するものが多く,経済的問題に関するものは極めて限定されていた。しかし近年,発展途上国を中心として,@輸送力問題A不定期航空問題B運賃設定機構問題,C認可運賃遵守問題といった経済的問題についても,政府間ベースで検討すべきであるとの要求が高まり,52年4月にはこれら4つのテーマについて討議するため,ICAO特別運送会議がモントリオールで開催された。
  同会議の結果,それぞれのテーマについて,@過劇輸送力の発生に対処するため,理事会が輸送力を規制するための基準を作成するとともに事前審査主義を基礎とするモデル条項を作成すること,Aチャーター規則の不統一により定期航空と不定期航空の区分が相対化し,輸送力の点からも問題が起こっていることから,不定期航空運送を定期航空運送から区別する定義又はガイドラインを設定するための研究を行うとともに,定期業務の存立基盤を害することなく旅客が不定期便の長所を利用する機会を与えること,BIATAの欠点の改善措置としてICAOの代表がオブザーバーとしてIATA運送会議に出席すること等,C認可運賃違反の頻発が市場の混乱を引き起こし,航空企業の財務内容の悪化をもたらすことから,タリフ違反に対する罰則を設けるとともに同違反を調査する機構を設けること等の勧告が採択された。

(4) ハイジャック等防止対策の強化

  52年9月28日,日本航空の南回り欧州線472便(DC-8型機)がバンコクへ向けてボンベイを離陸した直後に5名の日本赤軍と称する犯人によりハイジャックされ,151名の乗客及び乗務員が人質とされた事件が発生した。この事件は1人の死者も出さずに一応の終息をみたが,人質となった乗客及び乗務員の人命を守るため,政府は服役,拘留中の6人の釈放と600万ドルの身代金を支払うという異例の措置を講ぜざるを得なかった。
  ハイジャック防止については,これまでハイジャックの防止等に関する東京条約,へーグ条約及びモントリオール条約の批准とこれに伴う国内法制の整備等,48年8月のハイジャック等防止対策要綱等に基づく諸般の施策の実施推進に努めてきたところであるが,政府はこの事件を契機に,かかる人質を盾とした非人道的な暴力行為の再発防止を図るため緊急に有効かつ総合的な対策を講ずべきであるとして,事件終息直後の10月4日,閣僚レベルで構成する「ハイジャック等非人道的暴力防止対策本部」を設置し,政府の総力をあげて再発防止対策に取り組むこととなった。
  同対策本部は,10月13日,第1次のハイジャック防止対策を決定し,日本赤軍対策,国際協調の推進,安全検査等の徹底,出入国規制,国民に対する理解と協力の要請及び在外公館等の警備の強化の6項目について,ただちに実施することとした。
  また,この種犯罪の未然防止に万全を期し,併せて犯人に対する実効ある科刑の実現に資するため,「航空機強取等防止対策を強化するための関係法律の一部を改正する法律案」を閣議決定(10月28日)し,第82回国会に提出した。さらに11月8日,同対策本部は,新たに講ずべき対策を追加決定するとともに,今後も対策の実施状況を常時点検し,必要な措置を講ずる常設的なものとして運営されることが決定された。


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