2 運輸関係の重要事項


  海洋法会議の審議経過は,伝統的国際慣習法として確立していた「海洋自由」から「海洋分割」への転換,すなわち新興独立国を中心とする沿岸国管轄権の拡大の歴史ともみられ,また,それは先進国・海運国と発展途上国・沿岸国との対立の歴史であったともいえよう。
  これまでの審議の結果,@領海幅員の12海里への拡張,A沿岸国に距岸200海里までの海域における生物,鉱物等の資源管轄権等を認める排他的経済水域の設定,B同海域における海洋環境の保全のための沿岸国管轄権の承認等の新たな制度が新海洋法条約の内容となることは今や確定的な情勢である。
  こうした動きに対して,我が国を含む先進海運国は,できる限り自由な船舶通航制度を確立し,沿岸国による汚染防止管轄権の拡大の行き過ぎを防止しようと努めている。
  現在なお審議が続けられている重要事項としては,国際海峡における通航制度の問題,海洋汚染防止の問題等がある。

(1) 国際海峡における通航制度

  領海幅員の12海里への拡張に伴い,従来公海部分が序していた海峡の多くが領海で覆われることとなるため,国際交通の要衝たる国際海峡における船舶の通航制度をいかにするかが重要な問題となっている。
  現在までの審議では,一般領海での通航に比べ,より自由な通航制度(妨げられざる通過通航の権利)を認めるとの方向で審議が進められているが,一部海峡沿岸国にはなおこれに反対する声もある。
  我が国としては,特に原油輸送の生命線ともいわれるマラッカ海峡等における商船のできる限り自由な通航を確保することが是非必要であるとの観点から,本問題については格段の努力を払って対処してきたところである。

(2) 海洋汚染防止の制度

  船舶に起因する海洋汚染の防止については,汚染防止基準の設定権,取締権の態様等について,海運国,沿岸国間の対立が残されている。特に,現在問題となっているのは,領海内における船舶の構造,船員の配乗等に関し沿岸国に国際基準より厳しい基準の設定権を認めるか否かの問題であり,我が国を含む先進海運国はこれに否定的な態度をとっている。


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