1 新海洋秩序に対する我が国の対応


  国際社会における新海洋秩序形成への指向は近年特に著しい。特に,51年末から52年にかけての米国,ソ連等による相次ぐ200海里漁業専管水域の設定為当該海域における我が国漁獲量の大幅な削減という形で国民生活に重大な影響を及ぼしている。
  また我が国もこうした国際社会の動向に対応するとともに,我が国沿岸漁民の利益保獲等を図る見地から,領海幅員の12海里への拡張,200海里漁業水域の設定の措置を講ずることを余儀なくされ,新海洋秩序形成への動きは「200海里時代到来」という言葉とともに国民生活の隅々にまで浸透することとなった。

(1) 領海法の制定

  現在,新海洋秩序の形成を目的として開催されている第3次国連海洋法会議において,領海幅員の12海里への拡張は今や確定的情勢とたっている。また,現実に領海幅員を12海里としている国は,現在世界で60か国近くにものぼっている。
  一方,最近,我が国近海におけるソ連等外国大型漁船の活動が活発化し,これに伴って我が国沿岸漁民の操業活動が制約されるとともに漁船,漁具等の被害が多発するようになり,特にこれらの被害が我が国の距岸3海里から12海里の間の海域で多発していることから,領海幅員の12海里への拡張に対して沿岸漁民を中心とする国内世論が高まった。
  このような内外の諸事情を考慮し,政府としてもこれ以上沿岸漁民の被害を放置できないとの観点から,海洋法会議の結論を待たずに,国内法措置として,領海幅鼠の12海里(ただし,国際海峡については,国連海洋法会議の決定をみるまでは現状のままとする。)への拡張を決定し,第80回通常国会に「領海法案」を提出し,同法案は52年5月2日成立をみるに至った。
  本法は,@我が国の領海を基線からその外側12海里までの海域とし,A基線についての定めをおくほか,B国際海峡に係る特別措置として5つの海峡(宗谷,津軽,対馬海峡東水道,同西水道,大隅海峡)について特定海域を設け,領海幅員を現状どおり3海里にとどめる措置を講じている。
  国際海峡についてこのような措置を講じたのは,海運国である我が国の利益保護の観点からである。
  すなわち,国際海峡における船舶の通航制度に関しては,現在国連海洋法会議において,一般領海の無害通航制度に比べより自由な通航制度を認める方向で審議が進められている過程にあり,我が国は,海運国としての立場からこうした方向に沿って国際海峡における大型タンカー等商船の自由な通航を確保することを必要としている。
  こうした判断に基づき,国際海峡における通航制度がいまだ確立されていない現段階において,我が国周辺の国際海峡を領海とすることは,他国の国際海峡における通航規制等の動きに対して有効に反論し得なくなる等の問題があることから,領海法では,国際海峡の通航制度が国際的に確立されるまでの間の暫定措置として,5海峡における領海幅員を現状に凍結したものである。

(2) 漁業水域に関する暫定措置法の制定

  51年末から52年にかけて海洋法会議の結論を待たず,米国,ソ連,EC諸国等による漁業水域の設定等200海里水域の囲い込みが相次ぎ国際社会は新しい海洋秩序への急速な歩みをみせている。特に,隣接国であるソ連による漁業水域の設定は,我が国漁業に重大な影響を及ぼすこととなった。
  そこで,我が国としては,国際的な200海里時代の急速な到来に対処するとともに,日ソ漁業交渉の行き詰まりの打開を図るために,領海幅員の12海里への拡張に併せて,国連海洋法会議の結論が出るまでの間の暫定措置として,200海里の漁業水域を設定する旨を決定し,第80回通常国会に「漁業水域に関する暫定措置法案」を提出し,同法案は52年5月2日成立をみるに至った。
  本法は,@我が国の基線から200海里の海域(領海及び政令で定める一定の海域を除く。)を漁業水域とし,我が国が漁業及び水産動植物の採捕に関する管轄権を有することとし,A当該水域内で外国人が行う漁業等についての規制措置等を定めている。

(3) 新海洋秩序への対応

  新海洋秩序形成への各国の動きの余波は,予想をはるかに上回る速さで我が国へも押し寄せてきた。従来,我が国は,海運国,遠洋漁業国としての立場から「広い公海,狭い領海」を主張して各国の管轄権拡大の動きに対して常に批判的な立場をとってきた。
  しかし,今や,その我が国が,領海幅員を12海里に拡張し,200海里の漁業水域を設定するに至ったことには,まさに隔世の感がある。「領海法」及び「漁業水域に関する暫定措置法」の制定に伴い,我が国の管轄権の及ぶ海域は飛躍的に増大することとなる。
  すなわち,領海面積は3海里領海約7万5,000平方キロメートルから12海里領海約31万平方キロメートルと4倍強へ拡大され,また,漁業管轄権を行使しうる海域は,政令除外海域を除いても,約380万平方キロメートル,国土面積の10倍強の広大なものとなった。
  国土面積の狭小な小資源国である我が国としては,海洋科単技術の発達と相まって,この広大な海域を最大限に活用していく必要があり,そのためには,新海洋秩序下における海洋の総合的・計画的な管理,利用の方策を早急に検討する必要があろう。
  同時に,これら海域における我が国法令の施行をはじめとする我が国管轄権の行使のため,広域的な監視・取締が必要となる。


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