1 バミューダ体制の見直し


  現在,国際定期航空運送の分野における輸送力は2国間協定によってその枠組が決定されている。これは昭和21年にアメリカとイギリスの間で2国間航空協定が作成されて以来,世界的に採用されているシステムであり,従来各国が締結している2国間協定もこの英米が結んだバミューダ協定をモデルとしたものが多かった。しかし,このバミューダ体制には問題点が少なくなく,なかんずく輸送力問題をめぐっては,英国が主張する事前審査主義(ある期間の提供輸送力をあらかじめ航空当局間等において需要予測等に基づいて決定する方式)とアメリカが主張する事後審査主義(当該路線を運航している企業が,輸送力増大が必要と認めた場合は独自の判断で輸送力増大を行い,一定期間後に当該輸送力増大が必要であったか否かを審査する方式)をめぐる争いがあり,バミューダ協定においては後者が採用されている。近年,殊に石油危機以降の輸送需要の後退と大型機の導入による提供輸送力の大幅増加が粗まって供給過剰が現出し,国際航空運賃についても著しい混乱が生じていることから,この輸送力問題は尖鋭化している。このため,日本,英国,イタリア等がバミューダ体制は現在の航空事情に適合しないとして,その見直しを進めてきているところである。

(1) 日米航空交渉

  日米航空協定については,締結当初より不均衡があるとして,数次にわたり改訂のための交渉を行ってきた。この結果,我が国は路線権として34年ロサンゼルス乗入れ権,40年ニューヨーク経由世界一周線,44年大圏コースニューヨーク線及びサイパン経由グアム線を獲得したが,その都度,既在路線権の放棄,米国補助航空企業の乗入れが行われる等の代償を払っており,不均衡の是正は十分行われていない。
  51年10月より日米航空交渉が行われているが,この交渉において,我が国は国際航空関係をとりまく諸情勢を考慮し,日米間の不均衡を抜本的に是正することを目指すこととしている。
  現行の日米航空協定において,我が国にとって不均衡となっているのは,以下の3点である。@日米間路線においては自国発地点が特定されておらず,かつ米国が米国企業が出発している地点へ我が国企業が乗入れることを制限しているため米国企業は日米間のほとんどすべての輸送に参加しうるのに対して,日本企業の参加は限定されている。このため,現在米国側が一方的に運航しているシカゴ,シアトル等への我が国企業の乗入れ,さらに今後米国内で相対的に地位が高まると予想されるダラス,ヒューストン等への乗入れは現行協定下では不可能になっている。A以遠権については,米国側が日本以遠無制限の権利を有しているのに対し,日本側はニューヨーク以遠欧州への権益しか与えられていない。B輸送力については企業が自由に決定できることとなっているため,複数企業の指定と相まって数多くの強大な企業を有する米国に有利になっており,米国側は日本側の約2倍近い輸送力を提供しており実質的に著しく不均衡な状態が生じている。
  日本側は2回の予備交渉を含めて合計7回の交渉を通じ,これらの不均衡を抜本的に是正することを強く主張してきているが,米国は,協定改訂交渉に入る前提として,従来から計画していたサイパン-日本の新規航空企業の乗入れ,貨物機材の大型化を日本側が認めることを求めてくるなど議論は平行線をたどった。しかし,52年7月に行われた第4回交渉において,これらの当面の問題に関する合意がなされたため今後本年内に協定改訂を終了することを目途として本格的改訂交渉が行われることとなった。52年10月に行われた第5回交渉においては日本側が要求事項を具体的に提示して現行協定の改訂を迫ったの対し,米国側は日米間路線権及び以遠権については両国の航空関係を拡大的な方向でより均衡のとれたものとする用意があるとしつつもチャーター便を自由化するとりきめの締結,画期的な低運賃の導入等を協定改訂問題と一括して処理しない限り協定改訂に応じられないとの強い態度を示した。両国の立場に著しい相違があり,解決は11月末に予定されている次回交渉に持ちこされた。

(2) 英米航空交渉

  バミューダ協定締結の当事国である英米間においても英国が日本と同様の要求を掲げ51年6月に英米航空協定を廃棄し,以後1年間にわたり交渉が行われ,協定失効寸前に妥結した。
  この交渉の結果はおおむね次のとおりである。@路線権については,英米間では既に発着地点を特定して路線権の交換が行われていたが,米国内の数地点が新たに開放されることによりロンドンとこれらの地点を結ぶ路線が設定されることとなった。A以遠権については,米側企業のロンドン及び香港以遠の以遠権が漸次削減されることとなった。また,運輸権を伴わない運航権については,相手国以遠の国への,あるいは,背後の国から自国を通って相手国への運航が自由に認められることとなった。B輸送力については,企業の自由な判断に委ねられていた輸送力増加について北大西洋路線に関し政府間調整の手続きが設定された。C企業指定については,北大西洋の各路線につき原則として両国が各々単一の企業指定をすることが合意された。
  新協定は,旧バミューダ協定の有する弊害,不明瞭性を改め,英米両国を取り巻く国際航空環境に適応すべく成立したと伝えられている。新協定の評価は,今後の運用実績により判断されなければならないが,国際定期航空で1,2位の実績を有する英米両国の重要性に鑑み,国際航空界に少なからぬ影響を与えるものと考えられる。


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